「味噌汁、しょっぱい。」
「す、すみません……目分量でっていうのがよくわからなくて……薄めようとしたら、鍋から零れちゃって。」
「そんなに味噌入れたの?…しかも赤味噌。」
「あ、赤と白の区別があまりつかなくて……とりあえずお玉一杯分なんですけど。」
「二人分なんだからそんなに入れなくていいよ。半分くらいで。」
「は、はい。」
雲雀さんは誰かがご飯を用意しないと、食事を取らない。
自宅では基本的に携帯できるタイプのドリンク剤やゼリー状のものしか食べないし、多分仕事先では草壁さんが用意しないと何も食べない。
それでも普通以上に運動することもあるからこの人は凄いんだけど、それじゃいつか倒れてしまうと思った俺は、せめて家に居る間だけでも普通にご飯を食べてもらおうと、日本食を勉強した。もちろん、元々料理なんかしない俺がいきなり上手く作れるわけもなく。
「………ワオ。たくあんが繋がってるの、生で見るの初めてだよ。」
「すみません………。」
雲雀さんの掴んだたくあんの切れ端が丸々一本分に繋がっていた。
包丁は引いたら切れるというけれど、上手くその感覚がつかめない。
何度か指を切ってしまって、もう手は絆創膏を貼るところが無い。
「……魚、半分焦げてて半分生なんだけど。どんな焼き方したの、コレ。」
「えっと、その……コンロに網を乗せて、その上にサンマを乗せて……」
「ひっくりかえした?」
「いえ。」
「………次からちゃんと返してね。」
「……はい。」
一品食べるごとに雲雀さんの言葉が突き刺さる。
これじゃあドリンク剤の方がマシかもしれない。
少なくともお腹を壊す心配がないだけはるかにマシだ。
やっぱり慣れないことはするもんじゃないなぁ、と小さく溜息を付く。あれ?
「……次から、ってことは、次も食べてもらえるんですか?」
「どうせ作るんでしょ?もったいないからね。」
雲雀さんがくすっと笑った。
それを見て俺は顔を真っ赤にしてしまい、少し俯く。
次はもっと頑張らないと、と強く決心して居たとき、ぽつりと雲雀さんが呟いた。
「僕の舌を唸らせるくらいの料理が作れるようになるまでは食べてあげるよ。…そんな日が来るのかわからないけどね。」
溜息混じりに呟かれた言葉に少し傷ついた。
けれど、それ以上に嬉しくてしょうがなく思うこの気持ち、きっと雲雀さんは気付いてない。
(あれ?これって一種の将来の約束なんじゃ、ないか?)
雲雀さんがそれを意図して言った訳でじゃない、とは思うけれど、ちらっと雲雀さんの表情をうかがった。
パチッ、と目が合って、そして
(え、あ、うわ)
楽しそうに口の端を吊り上げた雲雀さんを見て、ぼっと前以上に顔が赤くなる。
冗談なのか本当なのかわからないようなことを言うから、この人は性質が悪いんだ!
けれどそれすらも嬉しくて嬉しくて、どうにかなってしまいそうだ。
みえないみらいに