「おやすみなさい、雲雀さん」
「おやすみ」
一緒に住むようになった俺と雲雀さんは、だからといって何が変わるわけでもなく。
雲雀さんと俺は相変わらずすれ違った生活をしていた。
ゆるがぬひとみがゆらぐとき
雲雀さんに、好きだと言ってもらえたわけではない。
けれど俺が、雲雀さんに好きだと言った返答として、一緒に住む事を提案された。
だから、きっと雲雀さんも俺のことを好きで居てくれるんだろう、と思う。だけど雲雀さんは俺のことを気にしてくれて居る様には思えない。
俺が朝起きたときには雲雀さんはもう家にはいない。
時には長い間家を空けることがあって、そして雲雀さんが帰ってくる頃には、俺は眠る時間になっている。
一緒に寝る、なんてわけでもなく、俺と雲雀さんの間で変わった事は、俺が寝る前に雲雀さんと挨拶を交わすようになったことぐらいだった。
(…挨拶のキスすら、してないよ)
日本ではそういう習慣は無いのだと、ボンゴレが言っていた。
特に雲雀さんはそういった馴れ合いは嫌いなのだと知っている以上、たとえ挨拶の意味だとしてもキスをするのは躊躇われる。
ハグもしてない。手も繋いでない。
(……俺達って、付き合ってる……のかな)
自分と雲雀さんの関係がはっきりしないのが不安で、不安で。
でも雲雀さんにこんなことを言えば、なんて弱い子供なんだと呆れさせてしまいそうで。
(……今度聞いてみよう。)
俺は雲雀さんの何なんですか?と、直接、雲雀さんに尋ねてみよう。
返って来る言葉を思うと少し怖いけれど、俺はそれを決めて眠りに着いた。
「おはよう」
「!お、おはようございます…!」
いつもは俺が起きると家に居ないのに、今日は雲雀さんは家に居た。
コーヒーを飲みながら普段着で新聞を読んでいて、時計を気にする様子もない。
「あの、雲雀さん。今日はお仕事は無いんですか?」
「一日空いてるけど」
ちらりと雲雀さんが視線を走らせた先を見ると、そこにはカレンダーがかかっていた。
様々な予定が書き込まれたカレンダーの、今日の部分にだけ何も書かれていない。
また明日からは仕事がびっしりと詰まっているのに、今日だけ。
「君、いつもこんな時間まで寝てるの?もう11時なんだけど」
「えっ……え!?違います!今日はその、何故か目覚ましが止まってて…」
いつもは目覚ましに起こされているのに、今日は何故か時計も鳴らなかったことに気付いて慌てて弁明をする。
時計を見れば、雲雀さんの言うとおり11時を過ぎていた。
どうして今日に限って、こんな間抜けなことをするんだろう、俺は。というか、何故決心した日に限って、雲雀さんは仕事が無いんだろう。
俺は本当に間が悪いのか、運が悪いのか。
「綱吉が、今日は君の仕事は無いって。」
「は、い……えっ……ほ、ホントですか?」
「どうしてわざわざ僕が嘘をつかないといけないの」
「だって、今ボンゴレは忙しいはずで、俺にも書類が回ってきて……もしかして雲雀さん、十代目に何か言ったんですか?」
一瞬 雲雀さんの瞳が揺らぐ。
「……どうして?」
「だって、雲雀さんに今日は仕事が無くて…それで、俺の仕事も無いって言われたら……期待しますよ。誰だって。」
どくん、どくん、と心臓が大きく鳴り出した。
これは昨日決心したことを確かめるチャンスなんじゃないか?
もしかしたら、わざわざ直接聞かなくてもいいかもしれない。
だって、もしこれが俺の期待通りなんだとすれば、雲雀さんの気持ちなんてわかってしまうんだから。
「雲雀さん、わざわざ俺と過ごすために今日一日を空けたんですか?」
「…………。」
雲雀さんは何も言わず、少し俺を見て、そしてついに瞳を逸らした。
あの雲雀さんが。
いつも真っ直ぐ俺を見る雲雀さんが、目を揺らがせて俺から逸らした。それは肯定に等しい意味があると、きっと雲雀さん自身も自覚していること。
「……雲雀さん」
「何。」
「俺、雲雀さんが大好きです」
不機嫌そうに見える貴方はきっとただ照れているだけで。
両方の目からあふれ出す涙を止める術を、俺は持っていなかった。
ぶきようなあなたをおれはいつもあいしてる