目を見たら、硝子球のようだった。
きらきら青く光って綺麗なのに
なにも見えなくて
Colorless
「ボーカロイドなんかしらねーっつーの…」
カイト、と言うらしいあのロボットが着替えてる間に、パソコンを立ち上げてボーカロイドについての情報を集めてみることにする。
まだ髪は濡れてて気持ち悪いし、服だって着替えたものの寒くて仕方ない。
早く風呂から出て来い、と思いながら、カチカチとキーを叩いた。
元々パソコンはあまり使っていないので、指が慣れていなくてぎこちない。
「えーっと……ボーカロイドってつづりなんだよ」
少し考えていたが、直ぐに面倒になってカタカナで突っ込んで検索した。
すると、かなりの量の情報がヒットして、どうやら俺が無知なだけらしいことが判明した。
「えーっと……歌を唄うための、アンドロイド…」
これはアイツも言っていたからわかっている。
とりあえずネット辞書のようなもので調べてみることにして、ボーカロイドの項目をクリックした。
すると驚くことに、カイト専門の項目まであった。
「へぇ……他にも種類あんのか。」
緑色や、黄色、赤、ピンク、紫など、さまざまなイメージカラーがあるらしい。
それによってキャラクターや声質なども全く違うもの。その中でも、カイトはどうやら初期の頃に作られたものらしかった。
『ボーカロイド・カイトの基本的性質』
「………性格とかって統一されてんの?」
少し気持ち悪いな、なんて思いながら、その項目をカチッとクリックした。
すると、途方も無い文章の量が出てきて、一瞬呆気にとられる。
カイトは初期の頃に作られたボーカロイドの為、性格はとてもマスターに忠実です。
初心者の方にはとてもオススメの商品となっています。
「……………」
商品 という扱いに、少しだけ怒りを覚えた。
少なくとも感情を持っているヤツを、モノ扱いするなんて
最初の頃は初期設定のままの性格になっています。
カイトは、マスターを見て学びます。
感情も最初は最低限のものしかありませんが、いずれは複雑なものも理解できるようになっていきます。
性格もマスターを反映するよう、プログラムされています。カイトの最も重要な個性は、どのように性格が変わろうとも、マスターは絶対だということです。
マスターが望めばカイトはどんなこともしようとします。
愛するし、憎むし、傷つけたいと願っても、マスターが拒めば傷つけることはできません。
「………安全のため、ってヤツか?」
胸にこみ上げる気持ち悪さを飲み下しながら、続きを読む。
試作品段階のカイトの中には例外もありましたが、そのようになるのはごく一部のカイトだけです。
そこだけ読んで、ウィンドウを閉じた。
もうこの辞書は読まないようにしよう、と思いながら、パソコンを放置して風呂場へ向かう。
ガラッと戸を開けると、カイトが小さく悲鳴を上げた。
「あっ、あの、どうかしましたか?マスター。」
「………別に。」
カイトは丁度着替え終わったらしく、俺が貸したジャージ姿で立っていた。
上から下まで改めてみるけれど、人と全く変わらない。
思わず手を取ってみたが、伝わってくるのは人の体温と同じだ。
「ま、マスター?」
「………お前、ホントにロボットなのかよ」
じっ、と伺うようにカイトの目を見ると、カイトが困ったように微笑んだ。
その笑顔は傷ついている、という類のモノではなく、純粋に困っているようだった。
「どうやったら、ロボットだと信じてもらえますか?」
「どうやったら…って……」
「僕は自分自身を破壊することは許されていません。中の機械をお見せすることもできません」
カイトはしゅん、とうなだれた。
俺はさあっと血の気が引いて、やっぱりいいと慌てて告げる。
(許可されてたら腕でももぐつもりかよ!?)
急に目の前の存在が怖くなって、バクバクと心臓が鳴り出した。
もしかして俺はとんでもないものを入れてしまったんじゃないだろうか。
『試作品段階のカイトの中には例外もありましたが、そのようになるのはごく一部のカイトだけです』
(……つまり、マスターの命令も聞かなかったってことか?)
さっきネットで見た文章が蘇る。
もしかして、このカイトはマスターの言うことを聞かなかったんじゃないだろうか。
それで、危険を感じたマスターが、コイツを捨てた。それを、俺が拾ってきてしまったとしたら?
「マスター?」
「っ………」
カイトが、心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
一瞬、怯えて身体を引こうとした
その時、ふと気が付いた
「………オイ、此処に置いてやる代わりに、一つ守ってもらうことがある。」
「はい、マスター。」
「絶対に、俺の言う事に、逆らうな。」
いいな、と念を押すと、カイトは一瞬きょとんとした後、直ぐに笑って「はい」と答えた。
どうして今更、と言う様な表情で俺を見ているカイトを早速風呂場から追い出して、俺が湯に浸かるための準備をする。
カイトの眼は何もなかった。
青い、綺麗な目だとは思った
けれど何もなくて 何も読み取れなくて
「…………アレが問題あるボーカロイドだなんて思えねぇしなぁ…」
服を脱ぎながら、俺を慕うカイトを思い出して、小さく首を傾げる。
どうしてアイツは、あんなところに捨てられていたんだろう?
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今のところ マスターはまだ常識人