「何、コレ」
ざあざあと雨が身体を打つ中、捉えた音声。
体温が低下しすぎて目を開けることすら出来ないままでいる僕に降って来たその声はとても優しく感じた。
一瞬 雨が止んだ気がした
How to use
「畜生……重い……」
自宅の前まで引きずるように背負ってきたのはいいものの、どうしたものか。
青い髪、青い爪を見たところ、普通の人じゃなさそうだし。
第一重過ぎる。
こんなに細く見えるのに、何でこんなに重いんだ。
「はー……なんでこういうの見つけちまうかなぁ」
自分自身に呟いて、玄関の鍵を開けて中に入る。
とりあえず玄関に背負ってきた人を置いて、俺は先に中に入った。
びしょ濡れの人を担いだせいで、俺もびしょ濡れになっている。
ごちゃごちゃの部屋の中からタオルを二枚取り出して、とりあえず上の服を脱いだ。
頭をタオルで拭いてから、玄関に向かう。
「…つーか、生きてんのかよコイツ…」
背負ってきた感覚から言えば、息をしていないような気がする。
体温も冷たくて、まるで死体みたいだ。
青白い頬にタオルを押し当てるけれど、ピクリとも動かない。
「……風呂に入れたほうがいいか」
一人暮らしのせいか、独り言を呟くクセが付いている。
溜息を付いて、風呂にお湯を溜めに向かった。
(……どっかで見たことあんだよな)
服と、髪の色から思うに、絶対に見たら忘れられないインパクトがある。
それでも俺が忘れてるということは、興味が無くてスルーしたって可能性があるけど。とりあえずお湯を溜めながら、濡れた服を脱がせようと試みる。
相手は男だし、特に何の感情もわかないはずだけど。
(……結構いい体してんじゃん)
背負った感覚からは、かなり細く思えた身体だが、結構筋肉が付いている。
無駄なく付いた筋肉は、完全に細身の俺からしてみれば少し羨ましいわけで。
濡れて下りてきた前髪をかきあげながら、目の前の男の服を脱がす。
ロングコートはこういう時厄介なんだよなぁ。水を吸って重いったらねぇ。
「ったく……全然目ェ覚めねぇし……」
とりあえず上の服を全部脱がせたところで、面倒くさくなってきた。
後でズボン脱がせりゃいいか、と考えて、そのままその男をずるずると引きずって風呂場へと向かった。
非力な俺からしてみればかなり頑張っているほうだと思う。
何とか湯船につからせて、はぁ、と大きく溜息をついた。
「何か身分証明書とか入ってねぇのかよ……」
ごそごそと服を漁っても、何も無い。
舌打ちをして、服を放り投げたときだった。服の襟裏に書かれた五つの英語。
「……か…いと…?」
その英語を読み上げた瞬間、背後でキュインっと何かの機械音が聞こえた。
振り向くと、湯船に浸かっている青い髪の男から聞こえたことがわかった。
ゆっくりと男の瞼が持ち上げられる。
綺麗な青い瞳が、俺を捉えた。
「………カイト……?」
「マスター、おはようございます」
にっこりと、さっきまでの生気の無さが嘘のように思える綺麗な笑顔を見せたカイト。
俺はこの時初めて、ボーカロイドというものの存在を知った。
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はじまり