マスターと前のように話せるようになってから1週間。

いつもお昼はお弁当のマスターが、珍しくお弁当を忘れていったので、それを届けることにした。

 

 

変化

 

 

 

お弁当を持って鍵を持って、さあ行こうか、と思った時、マスターの言葉を思い出す。
そういえば、コートのまま出るなといわれていた。

一週間前、マスターを迎えに行った時に言われた。
夏なのにその格好はやめろ、と。
熱い、とか冷たい、は感じるけれど、基本的に室温は感じないから、そういう事を全然考えていなかった。

このままじゃ出られないけど、届けなかったらマスターがおなかをすかしてしまう。
それに、僕もマスターに逢いたい。
どうしようか考えて、少し考えた結果、マスターの服を借りることにした。
確かマスターが大きくて着ていない服があったはず。
それを借りれば外に出られる。

 

 

 

「………えーっと……どっちだっけ」

そういえば、マスターの大学に行ったことは一回しかないような。
そのときも、あの雨の日に探しに行った時だったから、道順もうろ覚えだ。
確か、此処を右に…いや、左だっけ?

「…どーちーらーにーしーよーうーかーなっ」

もう、こうなったら適当に進むしかない。
なんだかすれ違う人達の目が痛い気がする。
髪の色が珍しいのかな?それとも格好がおかしいのかな…?

 

 

 

 

「つ、ついた……」

何とかお昼に間に合って着くことができて、少し嬉しい。
あとはマスターを見つけてお弁当を渡すだけだけど、なんだかすごく広くて、此処からもまた迷いそうだ。
せめて、マスターがいつも大学の何処にいるか聞いておけばよかった、と少し後悔しつつ、ふらふらと歩き出したときだった。

「カイトー!こっち!」
「!! マスター!!」

少し遠くから手を振って歩いてくるマスターを発見して、思わず泣きそうになった。
来てくれてありがとうございます、マスター。

「弁当サンキュ」
「もう忘れないでくださいね?」
「…ん。」

お弁当を渡して気が緩むと、なんだか人の目が気になってきた。
少し落ち着かなくて、そわそわしていると、マスターがじっとこっちを見ながら呟いた。

「お前、ずっとその格好で来たの?」
「え、あ、はい。」
「……ちょっと、カイト、来い。」

ぐいっと肩に腕を回されて、ちょっとドキっとしながらも、引っ張られるままにマスターについていく。
時折マスターは背後を振り返っていた。誰か気になる人でもいるのかな?
…なんだか少しやだな。

「マスター、格好、やっぱりおかしいですか?」
「おかしくねーよ。」
「え、じゃあなんで」
「…逆。お前身長高いし、顔結構いいし、しかもそれ、俺の服だろ?」
「はい。」
「その服、パンク系っつーの。髪の毛青くても似合うし。つまり、君はモテてたんです。」

おわかり?どぅーゆーあんだーすたん?とか言って、マスターは俺にでこぴんした。
へえ、服に系統があるなんて初めて知りましたよマスター。
普通のとは違うんですね。確かになんだかボタンが多いし紐は多いし、着づらいとは思ったんですけど。

「え、じゃあ、人の目から隠れるようにしなくてもいいじゃないですか。」
「ダメだ。」
「なんでですか?」

聞いてみると、マスターはぐっと言葉につまり、視線を少し泳がせた。
少しの沈黙のあと、マスターは言いづらそうにしながらも、言った。

「だから……その……あんま、お前がモテてんの見んの嫌なんだよ」
「え」
「違うからな、好きとかそういうんじゃなくて、同じ男として俺がモテないのが嫌だとかそういうんじゃないからな!」
「マスター、それって」

もしかして、まさか

「やきもちですか?」
「〜〜〜〜っだから違うっつってんだろバカイト!!!オラ、用が済んだんだからさっさと帰れ!!」

顔を真っ赤にしたマスターに蹴飛ばされて、少し前のめりになりながら校門を出た。
振り返るとマスターはもう入り口に向かって歩いていて、少し歩き方が怒っているような…。
でも、よく見ると耳が真っ赤で、照れているのが丸分かりで

(あれ、もしかして)

 

(結構、脈ありだったりして)

 

なんて 夢を見そうになる

ねぇ、マスター、期待してもいいですか?

 

 

 

(少し前と変わったことは、マスターへの思いをよく言うようになったことと、マスターと一緒にいることが、前より幸せになったこと)

 

 

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ひとまずこのシリーズは終わりです。
次からはまた読みきり型に戻ると思われます 多分←