カイトに告られて、最悪な方法で拒否った。
それ以来、カイトが少し、変わった
絶対
「マスター、今日の帰りは何時くらいになりますか?」
「んー…8時過ぎ。」
「わかりました。じゃあ、待ってますね」そう言って笑うカイトは、いつもと変わらない。
だけどどこか違う笑顔だと気付けるのは、多分俺だけだろう。
そして、どうしてこんなに遅くなるのかも聞いてこない。
俺が大学に8時まで残ることはほぼありえないのに(何故なら勉強とかそんなん面倒だから)「じゃ、行って来る」
「行ってらっしゃい、マスター」カイトに見送られて、家を出る。
あ、今日雨が降るってカイトが言ってたのに、傘を持ってくるのを忘れた。
「……案の定降られるし」
ざあざあと降る雨を見ながら、コンビニの入り口付近でぼんやりと立ち尽くしていた。
適当に時間を潰してから帰ろうと、近くの本屋で立ち読みにいそしんでいたところ、雨の音が聞こえたため急いでコンビニでビニール傘を買おうとした。
のに、ビニール傘は売り切れ。
仕方なく、せめて雨脚が弱まるまで待つことにしたわけで。「…もう8時なんか過ぎちゃってるし」
カイト、先に夕飯食べてるかな。
多分食べないで待ってるんだろう、一人で。
あの一件があってから、カイトは俺が言わないとご飯を食べなくなったし
大好物のアイスですら、食べようとしないし。
あ、そうだ、アイス買って帰ろうかな。
喜ぶ、かな、カイト「……あれ」
何で俺はいちいちカイトを気にしてんだ?
しかも、喜ぶ顔とか想像してなんかうきうきしてるし
あれ?なんかこういうのって…「マスター!」
突然声をかけられて、びくっと体を揺らして驚いた。
うつむいていた顔を上げると、そこにはカイトが傘を一本持ち、自分も差して立っていた。「雨降っていたので…マスター、傘を持って出ませんでしたし」
どうぞ、とカイトが持っていた俺の傘を差し出してくれて、それを受け取る。
「…なんで、俺の居るとこわかったんだよ。何処に行くのか言ってなかったのに。」
「マスターのことですから、何でも分かりますよ。用事もないんでしょう?帰りましょうよ、マスター。」
「…うん」笑って俺を見てから、前を向いてカイトが先に歩き出した。
慌てて俺も後を追うけれど、カイトと歩幅が違うらしく、少し急ぎ足じゃないと追いつけない。
以前は振り向いて、俺を待っていてくれたけど、もうカイトは振り向かなかった。
ざあざあと雨が傘を打つ音が響く。
カイトとの距離は、徐々に離れていく。カイトが俺から離れていく
そう思った瞬間、ぞくっと背筋が凍った。
カイトを失うのが怖いと思っているのかもしれない。
まだカイトが来てから二ヶ月しか経っていないのに、失うのが怖いなんてざあざあ と
雨音が響く
カイトとの距離は、どんどんひらく。
カイト
「っカイト!」
思わず名前を呼ぶと、カイトは初めて立ち止まり、こっちを向いてくれた。
変わらない笑顔で、俺を見ていてやさしいのに やさしくないえがおで
「…少し、早く歩き過ぎましたね。すみません、マスター」
カイトが待っていてくれるけれど、俺もその場に立ち尽くしていた。
俺はカイトに酷いことを言った。
カイトの事を傷つけた。
だからカイトは俺を突き放しているのか?
俺から、離れようとしてるのか?
離れて行くのが怖い、なんて
そんな感情、まるで
「……マスター?」
カイトが首をかしげて俺を見てる。
何か答えなきゃと思うけど、唇は動いてくれなくて「マスター、どうかしましたか?」
そう言ってカイトは近寄って、相変わらず動かずにただカイトを見る俺を不思議そうに見ていた。
少しカイトのほうが身長が高いため、俺は少し見上げるようにカイトを見る。
ついに、俺の目からぼろりと涙が零れ落ちた「えっ…ま、マスター?大丈夫ですか?どうしたんですか?」
「ごめん、カイト。俺、だめなんだ」
「え、えっ…な、何がダメなんですか?」ぼろぼろと涙が零れ落ち、にじむ視界の向こうに見えるカイトの顔はすごくうろたえていて
心のそこからあせっていることが分かって、胸が痛む。ごめん、カイト。俺はこれから、またお前を傷つける。
「一人になるのが怖いんだ。でも、信じられないんだ」
「…何をですか?」
「好きとか、一緒に居るとか、そんなの そんな形のないもの、どうやって信じればいいんだよ」カイトが目を見開いた。
俺は必死に涙をぬぐって、嗚咽を噛み殺して、カイトの行動を待つ。
プログラムだろうと何だろうと、恋という感情は酷く揺らぎやすいものだということを俺は知っている。
ましてや普通はありえない、男同士、しかもボーカロイドとの恋愛なんて、何時なくなるかわからない。「もし両思いになったって、別の誰かを好きになるかもしれないのに、なんで」
「マスター、聞いてください」カイトの声が優しくて、俺は耳を疑った。
涙をぬぐうのをやめてカイトを見ると、優しく笑っていて。優しく俺の頭に手を置いて、いとおしそうになでた
「あのね、マスター。俺、考えたんです。俺がマスターに感じる感情の全てがプログラムなら、どうなるのか。」
カイトの手が優しく俺の涙をぬぐう。
触られたところが 熱い
「変わらないんですよ、マスター。俺はのこの気持ちは。」
「人と変わらないのはわかってるよ…」
「違いますマスター。…変わらないの意味が、違います。」カイトは自分の胸に手を当てて、言った。
「俺は永遠に変わらないんですよ、マスター。マスターがマスターである限り、俺のこの感情の行き先は全て貴方しか受け止められない。この姿も声も記憶も決して変わらないんだから、この感情だって変わらないんです。」
ね?と嬉しそうに笑って言うカイトの言葉がまだ理解できなくて、目を見開いてカイトを見た。
カイトは本当に嬉しそうで、どうしてなのかもまだわからなくて「俺、嬉しいんです。人じゃなくて、機械の体だったことが。死ぬことのない体なら、ずっとマスターと一緒に居られる。マスターの傍で、ずっと歌っていられる。ずっと、マスターがいなくなってもずっと、マスターを想っていられるんですから」
初めて気付いた。
置いていかれるのは俺じゃない。
いつなのかはわからないけれど、でも確実に決まっていること。
俺がいつかカイトを置いて逝く
「世界に変わらないものなんてありませんけど、一つぐらい変わらないものがあってもいいじゃないですか」
ね?とカイトが笑う。
その笑顔は何度も見たはずなのに
心臓が強く高鳴って、俺は
(きっとこの時初めて 俺は終わり無い恋をしたんだろう)
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もうちょっとだけ続きます。
まだくっ付けないです。当分カイトの片思いを楽しみます←次はカイト視点で進みます。