「ああっ、マスター、マスター!!後ろに何か居ますっ!!」
「わかってんだから言うなっ!見ないように逃げてんだよ!」
「マスター、もっと早くっ!!」
「遅いんだよこの主人公ー!!」

 

 

恐怖

 

 

カイトと一緒に、暗い部屋の中でソファーに座ってテレビゲームに必死になる。
俺が友人から借りてきたホラーゲーム。
一人ならば決してやらなかったけれど、カイトが居るから、と思って借りてきたのだ。
部屋が暗いのは、暗いほうが怖いだろうと思って雰囲気を出すため。
しかし思いのほかカイトが怖がりだったため、今となってはそれを後悔している。

「あー、あっ、捕まっちゃいましたよマスター!!」
「だーっ!離せこのクソジジィ!!つーか主人公足遅いんだよ!!」
「でもマスター、コレ、首に手って届いてないですよね」
「え?…あ、ホントだ」
「…どうやって体力減らしてるんでしょうね?」
「…生気でも吸ってんじゃね?」
「え、どうやってですか?」
「さー…あれだ、ほら、怨霊の力とか」

なんだか少し怖くなくなった。
カイトは俺の腕に縋りつくようにピッタリと体をくっつけて、幽霊が現れるたびにびくびくと体を揺らす。
ボーカロイドでもお化けが怖いのか、と思いながら探索を進めると、また幽霊が現れた。

「わぁあっ、首、首吊ってますよー!!」
「煩い、耳元で騒ぐな!襲ってこないしいいだろ!」
「うぇっ、こ、怖いですマスター…!」
「ちょっ…何涙目になってんだよ、オイ!」

俺も結構な怖がりだが、カイトの怖がり方が俺を超えていたため、なんだか無駄に冷静になってしまった。
マスター、マスター、とか細い声で言うようになったので、カイトの為にゲームをやめることにした。

「ったく…じゃ、俺風呂入って来るから、ゲーム片付けといてくれよ」
「はい、わかりました……」
「…直ぐ戻るから、服から手を離せ」

そういうと、俺の服のすそを掴んでいた手はぱっと離れ、しぶしぶと言った様子でカイトがゲームを片付け始めた。
部屋の電気をつけてやってから、着替えなどの準備をして風呂場へと向かう。
服を脱いで、シャワーノズルをひねりお湯を出す。

ふと、此処でゲームの内容が頭を過ぎり、さぁっと血の気が引いた。
なんとなく嫌な気配がして、後ろを振り返るが、そこには鏡しかない。
…鏡、今はすっごく見たくない。

「…はは…あれ、ゲームだし、ありえないし」

自分に言い聞かせて、シャワーを浴びる。
ざっと頭にお湯をかぶって目を閉じた瞬間、またあのゲームの内容が頭をよぎった。

「------っわぁあああっ!?」

次の瞬間シャワーを取り落とし、がちゃんと音を立てて下に落ちた。
しかも、お湯を出したままの為、びちびちと蛇のようにのた打ち回る始末。
さらに止めを刺すように、俺は目をあけられないため、恐怖が倍増されたわけで、思わず悲鳴を上げてしまった。

「マスター!?どうかしましたか!?」

ほんの少しの間が空いてカイトの声がした。
続いて風呂場のドアが開いた音がして、尻餅をついた俺は恐る恐る顔を上げた。

「か、カイト…」
「マスター、大丈夫ですか?」

背中にカイトが手を添えてくれたらしく、まだ目を開けられないものの、少し安心できた。
お湯の打つ音がなくなって、がちゃんと音がした。
多分お湯を止めて、シャワーを定位置に戻してくれたんだろう。

「マスター、タオルです。」

ぽふっと顔に当てられた感覚とほぼ同時にカイトの声が聞こえた。
優しく顔を拭かれて、やっと目を開けると、カイトが目を泳がせていて

「…?どうかした?カイト」
「えと、あの…と、とりあえず、前を隠したほうがいいんじゃないですか?マスター」

ぱさっと体にタオルをかけられて、あぁそういえば裸だったんだっけ、と思い出す。
しかし男同士なのに、裸ぐらいで顔を赤くするとは純情なヤツだ。
ふと気が付くと、カイトは服を着たまま風呂に入ってきていて、もちろんその服はびしょぬれで

「カイト、一緒に風呂入る?」
「え!?」
「だって、お前服びしょ濡れだし、俺一人で入るとまたおんなじことしそうだし」
「で、でも」
「風呂場結構広いし、いいじゃん。よし、決定。早く服脱げー。」
「わっ、マ、マスター!大丈夫です、自分で脱げますっ!」

カイトに貰ったタオルをぎゅっと腰に巻いて、カイトの服を脱がしにかかった。
慌ててカイトが脱衣所へ出た後、そういえばカイトの服を洗った覚えが無いことに気が付いた。
というか、カイトがあの服以外を着ているところを見たことが無い。
…換えとかあるのだろうか。

「カイトー、服の換えとかあんのー?」
「あっ…そういえば、最低限の下着以外はないです!」

下着はあるのか。と心の中で突っ込みをしながら湯船につかる。

「じゃあ、後で俺の服貸してやるよ」
「ありがとうございます」

湯船に浸かってカイトを待つ。
そういえば、カイトって頭までお湯をかぶっても大丈夫なのだろうか。
一応は電化製品だし、まずいんじゃないか?と思ったけれど、カイトが何も言わないので大丈夫なんだろう。

しゅるしゅる。

あ、カイトがマフラーをとった。

じー…ぱさ。

コートを脱いだかな…?

ごそごそ ぱさ

…あいつ、インナー着てたんだ。

かちゃかちゃ しゅるっ

…ベルトでも取ったかな…って

「あぁあああああぁぁあああぁあっ!!何想像してんだ俺!!」
「ま、マスター!?どうかしたんですか!?」
「ななななななんでもない!!気にすんな!」

なんだか卑猥だこんちくしょう!!
っていうか、ホント何想像してんの、俺!
なんて自己嫌悪をしていると、がらりと戸が開いた。

「…?マスター、どうかしましたか?」
「…いや…別に」

カイトはちゃんと前を隠していて、なんだか期待した自分が馬鹿みた…って何考えてんだ俺!!
ぶつぶつと呟きながら、カイトがシャワーを浴びるのを見る。
カイトの体は人間と全然代わりは無くて、むしろコレで機械だと信じるほうが無理だ。
細くも無く、適度に筋肉の付いた筋張った男っぽい体。
ただ、肌の色は白いけれど。

「そういえば、マスターって細いですよね」
「うるせーな…生まれつき食っても太らない体質なんだよ」
「…それ、女の人に聞かれたら殴られますよ」

くすくす笑うカイトの声が風呂場に反響した。

(ホラーゲームの内容なんか、全然思い出せなかった)