マスターが、部屋から出てきた。

よかった、ちゃんと起きてくれたんだ。

お兄ちゃんが後から出てきた。

マスターが洗面所に顔を洗いに向かった。

 

その後姿を、ずっと見てた。

 

 

 

透明

 

 

 

「お兄ちゃん?」

 

後ろから話しかけると、お兄ちゃんは私が傍に寄っていることに気が付いて、顔を私に向けた。
どうしたのかな?っていう表情で、お兄ちゃんが首を傾げる。

 

「廊下に立ってると、マスターの邪魔になっちゃうよ。リビングに行こっ。」
「うん。」

 

カイトお兄ちゃんの腕を引いて、歩き出す。
レンがリビングのソファーに座ってニュースを見てるのが見えた。
あんなのの何が面白いんだろう。音楽番組の方がずっと面白いのに。

 

「マスター、起きてくれてよかったね。」
「…うん、良かった。」

 

ほんの少しの違和感を感じて、足を止めてお兄ちゃんを見る。
目が合うと、どうかした?と、お兄ちゃんが呟いて首をかしげた。
何時ものお兄ちゃんそのものの行動で、さっき感じた違和感は気のせいかな、と思う。

 

「なんでもない。気のせいだったみたい。」

 

ソファーにお兄ちゃんを座らせて、その隣に私が座る。
お兄ちゃんを挟んで、レンが座ってる。
いつもは、私とお兄ちゃんの間にマスターが座るんだけど。
ちらっと、隣のお兄ちゃんを見る。

 

あれ?

 

(………なんか、)

 

「?どうしたの、リン。僕の顔に何かついてる?」
「え……あ、ううん、何でもない。」

 

そう?と微笑んで、お兄ちゃんが私の頭をなでてくれた。
優しい、掌と微笑み

 

でも、何処か違う。

 

(マスターと何かあったのかな)

 

マスターの居る洗面所の方を見ると、マスターが丁度こっちに向かっていた。
目が合って、マスターが笑う

 

(…笑ってる?)

 

「おはよ、リン。レン。起こしに来てくれてサンキュな。」
「おはよう、マスター。朝ごはんはテーブルに用意してあるよ。」
「お。ありがとな、レン。」

 

マスターとレンが会話を交わす。
それもいつもどおり。

だけど、やっぱり

 

 

 

マスターが、バイトに出かけていった。
お兄ちゃんは、いつもどおり私達と遊んでくれた。
私達が遊び疲れると、やっぱりいつもどおり、おやつを持ってきてくれて、お兄ちゃんは窓の外を眺めてた。

 

私だけが、お兄ちゃんとマスターの変化を感じ取っていた。

 

(なんでだろう、二人から何かが消えてしまったような感じがするのは。)

 

 

 

 

---------------------------------------------------------------------
リンは女の子だから、多分レンより周りの変化に敏感だろうなぁ、と思います。