追いかけて、必死に走った。
家の鍵は占めたかどうか覚えてないけど、別に盗られて困るものは無いしどうでもいい。
ボーカロイドは歌を唄うためのアンドロイドなのに、リンとレンは走るのが速い。
基本的に運動をしない俺は直ぐに息を切らしてしまった。
場所
血の味がするけれど、走る。
ひゅー、と、喉から息が抜ける。
それでも、早く追いつかなくちゃいけない。
俺は二人を傷つけた。
(だけど、違うんだ)
言葉を間違えた。
きっと俺の本心が正しく届いてない。
どう言えばよかったのか、俺にはまだわからない。
だけど、ちゃんと言わなくちゃ。
そう思って、走り続けた。
いつの間にかカイトに買い物に行かせたスーパーの近くまで来ていて、もしかしたらカイトが止めてくれるかも、と、淡い期待を抱く。
次の瞬間、聞こえてきたのはブレーキ音。
人の悲鳴。
背筋が、凍った。
(早く、早く速く速く速く)
走って、辿り着いた道路。
見えたのは、歩道に座り込むレンの姿。
その目は呆然と、一点だけを移していて
その、視線の先は
「良かった、間に合って。大丈夫?リン」
反対側の歩道に座り込む、リンとカイトの姿だった。
何が起きたのかは聞くまでも無い。
車は既に居なくなっていたが、きっとリンが轢かれそうになったんだ。
「…レン、大丈夫か?」
「ま…すたー……」
「ごめんな。」
何に対しての謝罪なのか自分でも分からないまま、謝る言葉を口にする。
すると、レンは首を横に振って、にっこりと笑ってくれた。
「僕は、ちゃんとわかりましたから」
リンを止められなくてごめんなさい、と、レンが謝る。
謝ることは無いのに、と、頭をなでてやる。嬉しそうに、微笑むレンを見て、思った。
(あれ)
レンって、こんなに人間らしく笑ったっけ?
「マスター?」
「あ…悪い。二人のとこ、行こうか。」
レンの手を引いて、道路を渡る。
人は既に散会していて、ちらちらと横目で見る程度だった。
元々人の視線は気にしないから気にならないけど。カイトの背後から声を掛けようとした時だった。
「うーん……僕にとって、マスターの居場所は一つしかないんだ。」
ごめんね、と、カイトが話す。
その瞬間、リンの表情が曇った。
どうやら俺にしたのと同じ質問を投げかけたらしい。
カイトも俺と同じ回答しかしなかった。
他に、どういう言い方があったんだろう、と、唇を噛み締める。上手く言葉に出来ない自分が嫌になる。
「でも、リンの居場所も一つしかないんだよ」
カイトの続いた言葉に、目を見開いた。
「上手く言えないけど、僕にとってマスターはマスターだし…リンはリンだし、レンはレンだよ。
それ以外の居場所に当てはめろって言われても…ちょっと、困っちゃうかな」
そう言って、本当に困ったように頬を掻くカイトを見て、リンも目を見開いた。
「多分、マスターもそういうことが言いたかったんだと思うよ」
ね?マスター、と、カイトが俺を仰ぎ見る。
あれ
カイトって、何時の間に、こんなに
「……うん。ごめんな、リン。俺、上手く言えなくて…傷つけちまった」
手を差し出すと、リンはおずおずと握ってくれた。
にっこりと、笑いかける。
「二人とも、怪我は?」
「僕は大丈夫です。リンは少し手をすりむいたみたいで…」
「マジ?……ボーカロイドって、自然治癒とかすんの?」
「します。人と同じ手当ての仕方で大丈夫ですよ、マスター。」
「そっか。よかった。んじゃ、早く帰ろうぜ。絆創膏張らないと。」
レンとリンの手を引いて、歩き出す。
リンが俯きながら、小さな声で「ごめんなさい」と呟いたのが聞こえた。
気にしてない、と言う意味をこめてぎゅっと手を握ってやると、リンが嬉しそうに顔をほころばせた。
あれ?
リンも、こんなに人みたいに笑ったっけ?
「二人ともずるいよ!マスター、僕も手を繋ぎたいです!」
「腕は二本しかないから無理だ。諦めろ。」
「そんなー!」
後ろから泣きそうな声で言うカイトに、笑いかける。
リンとレンも、笑う。
そんな中、俺一人だけが心の底から笑えなかった。
(なんか、コイツらより)
俺のほうがロボットみたいだ
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カイトも、リンも、レンも、気が付いたら変わってた。変わらないのは、自分だけ