扉を開けて、外に飛び出す。
走る
走る
走る
走る
冷静な分析しか出来ない頭脳が、嫌になった
疾走
私達ボーカロイドは、マスターに認められて初めて存在を得ることが出来る。
存在の定義は何でも良い。
好き でも 嫌いでも
「リン!」
隣で焦ったように名前を呼ぶのは、私の大切な弟
「僕等は、ボーカロイドなんだよ」
レンを見ると、その目が訴えていた。
マスターの言うことは絶対だ、と。
目だけで会話が出来るほど、私達は繋がっている。
それでもあえて声に出すのは、確認したいから。
本当に相手が同じことを思っているのか。
「分かってるよ、レン」
だけど止まらない。
走る。走る。走る。走る。
体中の機能を足に集中させて、走る。
元々こういうタイプではないとはいえ、人よりは早く走ることが出来るから。
1m、1cm、1mmでもいい。
早く、遠ざからなきゃ
私は暴走してマスターを傷つけた。
傍には居られない。
また繰り返した
「リン!!」
「レン、来ないで」
私は不良品のボーカロイド。
分かってる。
私とレンは、前に別のマスターの元へ送られた。
最初のマスターは、私達を大切にしてくれた。
大切に。大切に。
だけどそれは、ボーカロイドとして。
私達を「わたしたち」としては見てくれなかった。
そのうち、マスターは私達に飽きた。
そして、私達は
「ねぇ、レン」
なのに、どうして
「『KAITO』も、『ボーカロイド』だよね」
あのボーカロイドは、違うの?
同じなのに。同じボーカロイドなのに。
あんなにもマスターに求められて、愛されてる。
「なんで、私達じゃ、駄目なのッ!!」
上手く発生できない喉。
いくらボーカロイドでも、全力で走ればいろんなものを消耗する。
息なんて吸わなくても良いけれど、上手く声が出なくなってきた。
「リン、違う、マスターは」
レン
貴方まで私を否定するの?
貴方にはマスターの言葉が受け入れられるの?
そうか、わかった
マスターがいらなくなったのは「私達」じゃない
私 だ
「リン!」
造られる過程で、きっと私だけ何か不具合があったんだ。
だから私は壊れそうになっているんだ。
ボーカロイドなのに、マスターの言うことは絶対なのに。
マスターの言葉を聞き入れたくないと思ってしまう。
嫌。そんなのは、嫌
見捨てないで
キ、と、地面を金属でこするような嫌な音が横から聞こえた。
見れば、直ぐそこまで近づいている、車。
何時の間にか車道に飛び出していた。
レンは
ああ、よかった、ちゃんと歩道にいる
轢かれるのは、私だけ
「マスター………」
ごめんなさい
「リン!!」
綺麗な、声。
視界に入ったのは、青い髪
空と、同じ色
次の瞬間、視界は空で占められた
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なんだこの展開。
助けに入ったのはカイトさん。
マスターはちゃんとリンとレンを追いかけたけど、早すぎて追いつけなかった。やっと追いついた時、見たのは