「カイト、歌ってよ」
マスターのその一言が、僕の心を浮上させる
尊敬
「カイトの声って、なんか聞きやすいんだよな」
唄い終わった後、マスターは笑って言ってくれた。
嬉しくてマスターに抱きつくと、マスターが僕の頭をなでてくれた。
「マスターの声のほうが、いいです。」
「それはお前だけだって。」
苦笑いしているマスターを見て首をかしげる
「僕だけ、ですか?」
「うん。お前だけ。」
「僕、嬉しいです。」
「はい?」
「だって、僕だけがマスターの良さを知ってるってことでしょう?」
僕だけ。
それは特別だということ。
マスターの良さを知っているのは、僕だけ。
「カイト、いい加減苦しいんだけど」
「あ、すみません」
ぱっと手を離すと、マスターは僕から離れて行ってしまった。
ぬくもりが無くなった腕の中が急に寒くなったような気がした。マスターから与えられるものが無くなった
「マスター、僕、マスターの体温あったかくて大好きです。」
「突然何だ。」
「なんとなく、言いたくなりました。」
そういうと、マスターは照れたように頬をかいた。
その頬が心なしか赤くなっているように見えたのは気のせいだろうか?
「カイトって見た目どおり体温低いもんな。」
「見た目どおり、ですか?」
「うん。性格とかそういうんじゃなくて、見た目が冷たそうな感じ。」
髪が青だからかな?と言いながら、マスターが僕の髪に触った。
マスターの細くてさらさらした髪とは違う、人工の毛髪。
さわり心地はあんまり良くないだろうな、と思ってふいっとマスターの指から頭を避けた。
「………なんだよ。触られるの嫌だったら言えよな」
「えっ、違いますよマスター!僕はただ、さわり心地良くないだろうなって思って、それで…」
慌てて弁解するけれど、マスターの機嫌は良くならなかった。
どうしよう、どうしたらマスターの機嫌は良くなるんだろうおろおろと慌てた後出した答えは、マスターの頭をなでるという事だった。
「……なんで?」
「え、あの、その…僕も触るから、マスターも触って良いですよっていうか……その…」
苦しい言い訳だなぁ、と苦笑しながら言うと、マスターは笑って僕の頬をぎゅうっとつねった。
「……マスター、何するんですか。」
「いや…つくづく思うけど、お前天然だよなって思って。」
マスターはクスクス笑って、僕の頬をつまんだりぷにぷにと押したりして遊んでいた。
どうしてか分からないけれど、機嫌が良くなってくれてよかった。
嬉しくて笑うと、何故か鼻を摘まれた。
「ま、マスター?」
「……なんかお前って、見てていじめたくなるんだよな」
「えっ、酷いマスター!」
こういう人なんていうんだっけ?と考えているうちに、マスターの手が離れて行く。
そしてその手が僕の頭を撫でて、マスターは嬉しそうに笑っていた。マスターが嬉しそうなら、僕も嬉しい。
優しい僕のマスター。
ずっと、僕のマスターでいてくれますよね?
「そうだカイト。昨日寝る前に話したことなんだけどさ。」
ドクッと心臓が跳ねたような気がした。
マスターは気付いていないようで、変わらない調子で言葉を紡ぐ。
「考えたんだけど、鏡音姉弟のほう買うことにした。」
ミクはこの次に買うから、と言って、マスターは僕を見てくる。
僕に意見を求めているらしい。何か言わないと、はやく
マスターが安心してくれるように
「じゃあ、僕に弟と妹が一気に出来るんですよね。……なんだか振り回されちゃいそうだなぁ。」
困ったように笑うと、マスターが笑ってくれた。
ああ、よかった。この言葉と笑顔は正しかった。
「んじゃ、あと一週間ぐらい待ってろな。」
そう言ってマスターは僕に背を向けて、パソコンを立ち上げた。
おそらくボーカロイドを購入するんだろう。
僕に姉弟が出来るのは嬉しいはずなのに、なんで
どうしてこんなに不安なんだろう。
(もしもマスターが僕よりも二人を気に入ったら、どうなるんだろう)
ぎゅう、とマスターの後ろから抱きついた。
「なんだよ、カイト。」
照れくさそうにマスターが身をよじるけれど、強く抱きついて離さなかった。
もう失くすのは 嫌だ
「カイト?」
怪訝そうに僕を見るマスターの、キーを叩く手を取った。
マスターの手の甲に唇を寄せる。
ちゅ、と音を立ててキスをした。
「!?」
マスターが顔を一気に真っ赤にしたのを見て、微笑んだ。
可愛くて、優しくて、大好きな僕のマスター。
本当に、大好き。
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カイトは少し独占欲が強めです。
手の甲にするのは尊敬のキス。