何が起こったのか、まだ理解しきれなかった。

 

 

破壊

 

 

カイトは「自分は壊れた」と言ったきり、動かない。
まぶたは閉じられていないまま、感情もなにもない光の無い目が俺を見ている。
カイトをソファーに寝かせて、様子を見る。
目は硝子のようで、コイツが機械であることを強く思い知らされた。

 

「カイト、オイ」

 

まさか、と思った。
カイトが壊れるなんて想像が出来なかった。
もしかしたら、ずっと前から前兆があって、怯えていたのかもしれない。
だから昼間、あんなに必死になって俺を繋ぎとめようとしたのかもしれない。

 

「…カイト」

 

傍にいたいと言った。
離さないでほしいと、カイトは言った。
それがどういう意味を持つ言葉なのか俺にはまだわからないが、カイトは製造元に送られることに怯えていることだけはわかった。
それなら、俺が出来る限りの事をするしかないじゃないか。

カイトをソファーに寝かせたまま、まぶたを手で下ろしてやる。
こうしてるとただ寝ているようにしか思えなくて、何気なく手をカイトの胸の上に置いた。

 

「!?熱っ…」

 

直ぐに手を放してしまう。
まだ熱で手がひりひりするほど、カイトの体は熱を持っていた。
でも背中や腕を触っても、こんなに熱は持って居ない。
それに、たとえ真夏の昼でもカイトの体温はひんやりしていた。
それがこんなに熱を持っているのはおかしい。

そういえば、カイトはまえから、時々自分の胸を押さえていた。

カイトに好きだといわれる前も、ずっと。

その頃はウイルスなんて無かったし、ということはこの熱はウイルスには関係ないのだろう。
この熱が元で壊れたなら、ウイルスじゃないことになる。
でもかなり前からあったことなら、壊れた原因はこれじゃない。
やっぱりウイルスか、という思考にたどり着くと同時に、この胸の熱さがなんなのかわからなくなった。

 

「…あーもういい!コレは後回し!」

 

壊れたことに直接関係がないのなら、構う必要はないだろう。
目が覚めた後、カイトに聞けばいいことだ。
先ほど電源を落としたパソコンを、再び立ち上げる。
そして、カイトをパソコンと配線で繋ぐ。

 

俺は、カイトのコンピューターへ無理やり侵入した。

 

 

 

 

 

 

マスター、が が呼んでい る

目を覚ます 覚ませ

機能オールレッド 起動不可能

マスタ マスター

ぼく、が ぼくの

 

しこ がまとまら な

ますた あ

ますた

 

す    き

 

 

 

 

 

「…っくしょ…」

 

カイトのコンピューターをハッキングした直後、俺のパソコンにカイトのプログラムが流れ込む。
1と0の記号の羅列と、文字化けしたような半角カタカナ、記号。
それと、ところどころの、ひらがなと、漢字。

カイトの言葉のような、文字

 

「マスターマスター五月蝿ぇっつーの……」

 

キーを叩く手が疲れるが、とめるわけには行かない。
アンドロイドのプログラムなんて弄るのは初めてだが、何もかもわからないわけじゃなかった。
なんとか、どれがどのプログラムなのかは分かる。

 

でも

 

「カイト………」

 

カタカタと、キーボードの音が響く。

カイトのプログラムを見続けて、数時間。

 

「……ごめん」

 

どこが異常なのか、俺にはわからなかった。

 

 

(お前はお前なのに 全部お前の言葉なのに お前じゃない部分が、見つけられなかった)

 

 

 

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マスターは実はかなりパソコンに精通してたり。