「雷雲よ、我が刃となりて敵を貫け」

 

凛、とした低く響く声が聞こえる。
魔物に囲まれ応戦している最中だというのに、アッシュは一瞬意識がその声に集中した。

 

「サンダーブレード!」

 

空から光りが降り注ぐのを見て、アッシュは咄嗟に一歩飛び退く。
その直後、応戦して一箇所に集められた魔物に、空から落ちる雷の刃に貫かれた。

振り返れば、音素に包まれてぼんやりと光るジェイドの姿があった。

 

 

 

世界が始まった日

 

 

 

「怪我はありませんか?」
「あんな雑魚相手に怪我なんかするかよ」
「それもそうですね」

 

一応聞いてみただけです、と付け足され、アッシュはフンと鼻を鳴らした。
心にも無い言葉をかけて、何の意味があるというのか。

 

(その辺は、コイツも甘いんだよな)

 

ルークのように、心から甘いわけではないことはわかっている。
それでも、ルークと一緒にいたことで、ジェイドは一番最初に会ったころよりも人間らしくなっているようには思えた。
それを本人は自覚しているのかいないのか、わからないが。

 

(………だからなんだってんだ)

 

何故かこみ上げる苛立ちに、思わず舌打ちを一つ。
それが聞こえてしまったのか、ナタリアがこっちを振り向いたが、気付かないフリをした。
少し乱れていた前髪をかき上げて、さっさと歩き出す。
最後尾のジェイドを追い抜こうとした瞬間、ぐいっと腕を引かれた。

 

「!?」
「感情を表すのはいいことですが、知られたくないなら上手く隠さないといけませんよ」

 

耳元で小さく囁かれ、ぎっとジェイドをにらみつけた。
思いのほか至近距離に顔があって驚いたが、それを悟らせないように、強く睨みつける。

 

「うるせぇよ。テメェ見てぇな鉄面皮よりマシだ」
「おや、鉄面皮ですか?こんなににこやかなのに」
「それが嘘臭ェッってんだよ」

 

掴まれた腕を振りほどいて、前を向いて歩き出す。

 

掴まれた腕が、熱くて

 

(赤い、目)

 

レンズ越しとはいえ、あんなに至近距離であの目を見たのは初めてだった。

自分の髪の毛なんかよりも鮮やかな、真紅。

 

(………なんで)

 

どくどくと心臓が脈打つのを感じて、

何故こんなにも鼓動が高鳴るのか、アッシュはまだわからなかった。

 

 

この意味が分かるのは後だとしても、始まったのは間違いなくこの時からだった

 

 

 

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リハビリ中