目の前の子供をどうしたいというのだろうかと自分に問う

 

れた思考回路

 

赤が揺れる。
整った姿勢で一歩を踏み出すたびに、艶やかな髪がふわりとゆれた。

「オイ、何見てやがる」

不意に立ち止まり、振り向いた鋭い碧眼が自分を捕らえて射抜く。
感情を隠すように眼鏡を上げ、いつものように笑顔を貼り付けた。

「いえ、やはり王族なのだと思いまして。」
「ハッ、俺はもう王族じゃねーんだよ。」

右手をポケットの中で握りしめて名もわからない衝動を抑える。
そしてまだこっちを睨み続けている子供を嘲るように小さく笑った。

「子供ですね。貴方が王族の血を引いたこと、数年間はその教育を受けたことは変わりないのに」
「何が言いたい」
「いえ、別に。」

ふん、と鼻を鳴らしてまた前を向き歩き出す。
後を追い、歩いてふと気がついた。

目の前の子供を引き寄せようとしているのか、ただ掴もうとしているだけなのか、右手が差し出されている

何をしようとしているのかわからなかった。
ジェイド・カーティスという男は全てにおいて確信をもって行動するはずなのに、この行動は何なのかの確信がつかめずに手を引っ込めようとした。
しかしその手を引くよりも先に子供が気付いてしまった。

振り向いた碧の眼が大きく見開かれて手を凝視した。

「・・・・・・・・何を、しようとしていた?」
「さぁ、何でしょうね。」
「とぼけてんじゃねぇ。」

さりげなく自然な仕草でポケットへと右手を戻す。
厚い手袋で関節が圧迫されて軋んだ感覚を感じながらも再び右手を握りしめる。
感情の読めないよう反射的に微笑を浮かべたが、それでも子供は眼を前へと戻さない。

「とぼけてなんかいませんよ。」
「じゃあ、なんで今俺に手を伸ばしていた」

さぁどうしてでしょうね と応えようとしても声が出ずに震えた吐息を零すだけだったことに驚いた。
何も言えないままでいると、子供は足をこっちに向け、歩き出した。
意図せずとも自分の方へ近づいてくることに喜びを感じさらに驚いた
そのまま胸倉を掴み上げ(子供のほうが身長が低いのだが)レンズの奥にある赤い瞳を睨みつける

「何がしたいのか、言え」

一文字ずつ動く唇に眼を奪われたことに驚きさらに子供の手を払いのけた自分に驚いた
そして気がつけばその子供の唇さえも奪っていたことに驚いた

 

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この子供をどうしたいのか結局分からないまま