ふと気が付くと、ルークはいつも空を見ていた。
まるで、そこに自分の居場所を探すかのように
スカイランナー
「何を見てるんだ」
「アッシュ。」
話しかけると視線は俺の方を向く。
それにどこか安堵した自分に腹を立てながらルークを見た。どこか達観したような表情で、ルークは笑っていた。
「何となく、空見てたんだよ。」
そう言ってまた空を見上げ、空に向かって右手を伸ばした。
「俺、昔さ。空ってつかめると思ってたんだよ。」
「馬鹿か。」
「今思うと、俺も馬鹿だと思う。」
くすくす笑いながら、空に上げた手で何かを掴むように指を曲げる。
けれど勿論何も掴めなくて、それが虚しく思ったのだと口にした。
「で、すっげー遠く感じたのに……なんでか今はさ、すげー近いような気がするんだ。」
そう呟いたルークの口元は笑ってはいるものの、目は酷く虚ろだった。
空を見上げたままのルークがまるでそのまま透けてしまいそうで、思わず口を開いて声を掛ける。
「オイ」
「ん……何?」
返事が返って来て、ルークは目を俺に向けた。
「お前は此処に居るだろうが」
「……うん。」
一瞬泣きそうに歪められた顔を無理やり笑みに変えたルークの表情は酷く滑稽なものだった。
自分はレプリカであるコイツを憎んでいたはずなのに、今どうしてコイツを励ますようなことを言っているのか分からない。
存在を奪われ、このレプリカの存在を俺だけは認めてたまるかと思っていたのに、どうして
「………アッシュ?」
何も言わない俺に不信感を持ったのか、ルークが俺の名前を呼んだ。
それに答えずに下ろされた右手を見て、掴む。
そして強く握り締めると、ルークは痛みに顔をゆがめた。
「何だよ、いてぇ。」
「…俺は、お前をつかめる」
ルークは首をかしげた。
まだ言葉の意味を図りかねているらしい。
本当にグズなヤツだ、と心の中で毒づいて舌打ちした。
「お前は、ちゃんと此処に居る。お前の居場所は空じゃねぇ。」
そして視線を、少し離れたところで談笑しているガイやナタリアの方を見た。
「あそこだろうが」
本当は、あの輪の中に自分も入っていたかった。
自分の居場所はあそこだと、いつもいつも思っていた。だけど今、俺の居場所はあそこじゃない。
ルークの居場所なのだ
「見失うんじゃねぇよ」
「…でも、俺はレプリカで、」
もう直ぐ乖離して消えるかもしれないのに。と消えそうな声で続いて、俺は顔をゆがめる。
俺がこんなにも言ってやってるのに、コイツは何時までもぐずぐずと駄々をこねるつもりなのか。
「もういい。そう思うならそう思ってろ。」
「あ……」
手を乱暴に離して、ルークを一人残してさっさとナタリアの方へ歩き出す。
他の誰でもない、オリジナルである俺が認めているというのに他に何が必要だというのか。
煮え切らない思いを腹に押さえ込みながら、苛立ちを隠さずにルークから離れた。
(消えても、あいつらの中にはお前は残るんだろうが)
身体は消えても存在は消えないと、どうして思えないのか。
そして、ふと思った。
あいつの居場所が彼等の輪の中だというのなら、自分の居場所は?
(……ヴァン師匠も裏切って、六神将の連中とは元々馴れ合っちゃいねぇ。ギンジも、他の奴等もみんな利用してるだけだ)
本当に孤独なのはルークではなく、自分なのだ。
そう唐突に理解した瞬間、空が自分を呼んでいる気がした。
(……居場所なんか)
いらない、と思った時、右腕を誰かに掴まれた。
顔を向けるとそこには自分と同じ顔のヤツがいて。
「………アッシュさ、この後また一人で動くのか?」
「だったら、どうした。」
ルークは何ともいえないような顔をして、少し言いよどんだ。
それにイライラして眉間に皺を寄せていると、ルークが唐突に呟いた。
「待ってるからな」
「は?」
「その…俺、アッシュの居場所つくってまってるから」
にっ、と笑ったルークの顔を見て、目を見開く。
直ぐにまた眉間に皺を寄せて、屑がと小さく罵った。
「急に訳わかんねぇこと言ってんじゃねぇよ。」
「だって、俺の居場所はもともとアッシュの場所だろ?ってことは、アッシュは今居場所なんか無いってことじゃん。」
だから居場所を作って待ってるのだと、ルークは小さく呟いた。
(不覚にもそれに泣きそうになってしまったなんか 絶対に言ってたまるか)
この馬鹿。