多分、誰よりもアイツの事を理解してるのは俺。

そして、俺を誰よりも理解してるのは、アイツ。

 

 

 

理解者

 

 

 

「アッシュ、また眉間に皺が寄ってますわよ!」
「チッ………」

 

ナタリアに額を指差されて、舌打ちしてアッシュが額に右手を当てた。
それを遠目に見て、ティアが小さく溜息を付く。

 

「何がそんなに気に食わないのかしら。……まぁ、わかるような気もするけれど。」

 

そう小さく呟いた後、ティアは僅かに目を伏せた。
それを見て、俺は苦笑を漏らしてアッシュを見る。
パチッと目があって、直ぐに目をそらされてしまった。

 

「…アッシュは、まだ貴方とわだかまりを感じているのかしら」
「多分、な。」

 

ティアが小さく、俺に呟く。
返事を返しながら前を向くと、ティアは少し心を痛めたように胸の前で手を握った。
何かを言おうとティアが口を開いたけれど、それより先に俺が言葉を紡ぐ。

 

「でも、多分今目を逸らしたのはそういうのが原因じゃないと思う。」
「え?」

 

確信は無いからコレ以上は言わないけれど、多分俺の考えは当たってる。
ティアの考えているような、俺の事が嫌いだから、とか、そういう理由で目を逸らしたわけじゃない。
そんな理由で目を逸らすという逃げの行為をするよりは、憎悪を持って睨みつけるのがアッシュの性格だ。
だけど睨むんじゃなくて、目を逸らしたということは

 

「照れたんだと思うぜ?アッシュ。」
「……アッシュが?貴方に?」
「ナタリアに注意された直後に俺と目が合ったから、多分。」

 

変なところを見られたと思って目を逸らしたんだろう。
そう続けると、ティアは驚いたような、戸惑ったような目で俺を見てから、ふっと笑った。

 

「私、あなた達は正反対だと思っていたわ」
「……正反対だろ?俺とアッシュ。」
「いいえ。少なくとも、ルークはアッシュを理解してるし、似てるところもある。」

 

外見だけじゃなくてね、と付け足されて、俺は言葉の意味が分からなくて首をかしげた。
ふと背後から視線を感じて、ちらりと振り返ると同じ碧の視線と目があった。
今、ティアになんか含みの有る事を言われたばかりで、なんとなく目をあわせていられなくて、目を逸らしてしまった。

 

(あ。)

 

成る程、ティアはこういうコトを言っていたのか。
違いは有れど、どうやら行動に微妙な共通点があるらしい。
理由は違っても行動は一緒なんだ。

 

「なぁ、アッシュ。」
「煩い」
「なんだよ、ただ話しかけただけだろ?」
「何の用も無いくせに話しかけるな。」
「なんで何の用も無いって分かるんだよ」
「顔を見れば分かる。何かろくでもないことを考えていたんだろう」
「ろくでもないことって、なんだよ」
「似てるだのなんだのと、言うつもりだろう。」
「あ、アッシュもそう思ったんだろ。俺とアッシュが似てるって。」
「……馬鹿を言うんじゃねぇ。話しかけるな、この屑。」
「屑、屑、屑……アッシュってそれしか言わないよな。言葉のレパートリー少ないんじゃねーの?」
「ふん。お前よりはある。黙って進め。」

 

喧嘩を売ったつもりだったが、アッシュにさらりとかわされてしまった。
でもアッシュも俺と同じ事を考えててくれてたことがわかって、何となく口が綻んでしまう。
それをアッシュに見られて、「しまりの無い顔」と怒られてしまったけれど。

 

「……アッシュって、なんだかんだ言って俺の事一番理解してるよなー。」
「当たり前だ。お前は俺だからな。」
「そうじゃなくて。俺の行動パターンとか、全然アッシュと違うじゃん。なのに分かってるんだし……あ、でも俺もアッシュの行動パターンわかるかも。俺と全然違うのに。」
「…頭が可笑しくなったんじゃねぇのか。訳の分からないこと言ってないで」
「さっさと黙って進め、だろ?はいはい。」

 

クスクス笑って前に歩き出すと、後ろでアッシュが舌打ちした音が聞こえた。
やっぱり、分かる。多分今は、俺にしてやられたことにイラついてるんだ。

 

 

どうやら俺達はお互いの一番の理解者らしい

(アッシュと俺は違うけど、なんでかお互いわかるんだよなぁ)