真夜中に目が覚めて、ふと窓の外を見た。

綺麗な満月。

 

 

 

存在

 

 

 

ぼんやりとした頭で、月をただ眺め見る。
どうして目が覚めたのかよくわからない。
嫌な夢を見たような気がするけれど、ルークは全く覚えていなかった。

 

「……ガイ」

 

隣のベッドで眠る自分の幼馴染に目を移し、その肩に触れようとした手を止める。
起こしたら悪い、と思ったのもあるが、それ以上に怖かった。

もしも この手で触れる事ができなかったら。

 

「……………」

 

伸ばした手を引っ込めて、握り締めた。
自分が今此処に存在しているという確かな証明が欲しい。
けれど、確認するのが怖い。

 

(………怖い。)

 

人を始めて殺した夜も、こんなふうに震えた。
だけどその時の恐怖を遙かに超える恐怖を感じる。
自分がまだ消えずに存在していると感じられるのは、誰かと接触している間だけ。

だれか、

 

存在している事を、教えて

 

 

--- オイ。返事をしろ』

「!」

 

ズキンと頭痛が走った次の瞬間、自分と同じ、けれども低い声が聞こえて来る。
急激に鼓動が高鳴って、生きているんだと実感する。
頭痛がマシになってきた頃、ようやく返事を返すことが出来た。

 

「……アッシュ?」
『チッ…まだ慣れねぇのか』
「うん。…でも、ありがと。」
『は?』

 

訳がわからないと言う様に、怪訝そうな声が帰って着た。
ルークが思わずクスクス笑ってしまうと、機嫌が悪くなったようで、少し荒れた声が返ってくる。

 

『何笑ってやがる。この屑』
「うん。屑でいいよ。とにかくありがと。」
『……気持ち悪い。』

 

心底気持ち悪そうな声が返ってきて、ルークはまた笑ってしまった。
ガイを起こさないように小声で、クスクスと笑う。

あまりにも彼らしくて。

 

「何か用だったんだろ、アッシュ」
『いや。』
「え?じゃあ、何で」
『……別に。なんでもない。じゃあな』

 

ブツッと線が切れたような音がして、通信は途絶えた。
頭痛が消えたことに息を吐くけれど、どくどくと波打つ鼓動はまだ消えていない。
生きていることを強く感じる。

 

(……でも、どうしたんだろう)

 

アッシュの様子が可笑しかったように感じて、ルークは首をひねった。
何の用事も無くわざわざつなげてくるような性格じゃないはずなのに。

 

(…………俺の見てた夢、アッシュも見ちゃったとか?)

 

同位体なんだし、ありうる。
同じ夢を見るというよりは、アッシュの方にルークが回線を繋げてしまった、と言うほうがいいのかもしれない。
しかしルークは何度かアッシュに連絡を取ろうとしたが、一度も成功したことはない。

 

(……考えすぎかな)

 

もしアッシュも見ていたとして、それで何故連絡をつなげてくるのか説明が付かない。
ルークは考えるのを止めて、ベッドに横になった。

 

(……俺、生きてる)

 

自分の手を見て、シーツの感触を確かめて、ルークは目を閉じた。

 

 

 

 

君が 君の存在が俺に俺がまだ生きていることを教えてくれる