「マスター、起きてください、マスター。」
「んー……。おはよ、カイト」
俺を起こしてくれたカイトを見て、目を見開く。
……その青いエプロンは、なんだ。
お約束
「……そのエプロン、いつ買ったんだ?」
「え……あ、これですか?マスターが昨日服を片付けてるときにあったヤツですよ。」
「へ?そんなのあったっけ?」
「はい。ちゃんと貰う許可はもらいましたよ。」
それより、早く朝ごはん食べてください!と、カイトに背中を押されてリビングへ向かう。
これで片手にお玉を持ってたら完全に新妻だなぁ、とまだぼんやりとした頭で思いながら、カイトが用意してくれた朝食のテーブルに腰を下ろした。
今朝はトーストらしく、イチゴジャムが備え付けられている。
まさしく新婚の朝、というか…。
「……何考えてんだ、俺。」
「?どうかしましたか?」
「や、なんでもない。…いただきます」
俺が食べ始めたのを見て、調理器具の片づけをしにキッチンへとカイトが姿を消す。
最初のうちは焦がしていたトーストも、慣れてきたのかいい具合の焼き加減だ。
なんだかやっぱり新婚っぽいなぁ、と思いながら朝食を食べ終えて、顔を洗いに洗面所へと向かった。
顔を洗ってから、そういえば食器を片付けるのを忘れていた、とようやくはっきりした頭が思い出し、慌ててリビングへと戻る。と、
「あ、マスター、着替え用意しておきましたからね」
「…あ、うん、サンキュ。」
てきぱきと、なれた様子で食器を片付け、テーブルを拭いているカイトを見て、一瞬固まる。
コイツ、ボーカロイドだよな?家事専用ロボットじゃないよな?と思いながら、家事専用にしてるのは俺のせいか、と思い当たって溜息をついた。
とはいえ、そんなに真面目にやらなくてもいいのになぁ。自室で着替えながら、ドアの隙間からカイトを見る。
相変わらず綺麗な顔に、寝癖の無いさらさらしてそうな髪だ。
少し眠いのか、目がとろんとしている。
その目が、不意にこっちを向いた。
「ッ………カイト、悪い、ドア閉めてくれるか?」
「あ、はい、わかりました。」
パタン、とカイトがドアを閉めて、俺の部屋の前から離れる足音が聞こえた。
小さく息を吐いて、何故かドクドクと煩い心臓を押さえる。
目が合っただけでこんな顔が赤くなるなんて可笑しくないか!?
「マスター、そろそろバイトの時間じゃないですか?」
「え、あ。」
時計を見ると、もう家を出ないと間に合わない時間になっていることに気が付いた。
慌てて服を着替えて、鞄を持って玄関に向かう。
ぱたぱたと後ろから小走りにカイトが付いてきて、何時ものように俺を見送ってくれた。
「いってらっしゃい、マスター。気をつけてくださいね。」
「ん、いってくる。」
靴を履きながらチラッとカイトを見る。
パチッと目が合って、カイトが嬉しそうに微笑んだ。
「………………」
「……………?」
首をかしげるカイトに、なんでもないと一言告げてから家を出る。
……いってらっしゃいのキス、とか考えた俺は色々とヤバイと思う。
+++
「ただいまーカイトー」
「お帰りなさい、マスターっ」
ぱたぱたと、カイトが玄関に走ってきた。
右手に、お玉。
「………お前、どこかで見た?そういうの。」
「え…何がですか?」
天然でやっているのか、と小さく呟いて溜息を付く。
お玉を顎に当てて首を傾げるカイト。
「あ、マスター、お風呂にしますか?それともご飯にしますか?それとも…」
「お前、って言うなよ」
「着替えますか…って、へ?」
「……ッなんでもない!着替える!」
「え、あ、はい。わかりました」
深読みしすぎた、と思わず顔に熱が集まるのを感じつつ、それを振り切るように自室へ入る。
カイトが戸惑っているのが感じ取れたが、あえて気付かないフリをする。
恥ずかしい、かなり恥ずかしい!
「……マスター、朝からなんだかおかしくないですか?」
「え、別に」
ドア越しにカイトが声を掛けてきた。
思わずそっけない返事をしてしまった。
どきどきと心臓が煩い。
「……マスター、もしかして、僕のエプロン見て新婚っぽいとか思ってません?」
なんでその考えが思いつくんだよ!!
「……図星ですか?マスター。」
「煩いっ」
「………マスター、入っていいですか?」
「好きにしろ!」
ずばり言い当てられて、半ば投げやりになって答える。
ドアに背を向けていると、開く音がして、カイトの足音が聞こえた。
そして、
「マスター、ご飯とお風呂の前に、僕はいかがですか?」
「!?」
カイトの一言に慌てて振り向くと、カイトはにっこりと笑って、俺を思いっきり抱きしめた。
苦しくて恥ずかしくて、顔が真っ赤になってしまう。
「マスター、いちゃいちゃしましょうっ」
「ば、馬鹿か!何言ってんだ!」
「だってしたかったんでしょう?」
顔を覗き込まれて、言葉に詰まる。
今朝見たとおり、綺麗な目。すごく、近くて
「でも、奥さんは僕じゃなくてマスターですね。」
「は!?」
「だって、マスターの方が料理上手いし、身長は僕の方が高い……」
「身長の事は言うな!!」
ざくっとさり気なく心に刺さった言葉を怒鳴りつけるが、それでもカイトは俺を放そうとはしなかった。
嬉しそうな顔のまま、俺を見て笑う。
「大好きです、マスター。」
「う、あ」
ずいっとカイトの顔が近づいて、離れたくても離れられなくて
俺を呼ぶ声が
「マスター」
どくどくと煩い心臓が収まらないまま、俺はぎゅっと目を瞑った。
それをどう受け取ったのか、カイトはクスリと笑って、
そして
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バカップルなカイマスになってしまっt
とにかくいちゃつかせたかっただけです←
柚葉さんのリクエスト、新婚夫婦のようなカイマスでした!リクエスト、ありがとうございました!!