その瞳に映る僕は、どんな姿をしていますか?

 

 

 

おしいほど

 

 

 

マスターの手が、僕の頭を撫でる。
その度に、僕は言葉が口をついて出そうになる。
立った二文字なのに、それに込める気持ちは言葉を紡ぐことを許さない。

 

「マスター、おやすみなさい。」
「ん、おやすみ、カイト。」

 

マスターが、一緒に寝ようと言ってくれた。
僕は嬉しくて、頷くことしか出来なくて。
ベッドに入ってから、思わずマスターを抱きしめた。

 

「カイト、なんだよ。」
「寒いんですよ。」
「ボーカロイドが?」

 

くすっと笑うマスターの言葉に険はない。
純粋に、冗談として紡がれた言葉で、僕もソレを理解している。
暖かいマスターの体。
少しすると、直ぐにマスターから寝息が聞こえてきた。
僕は勿論寝れる訳はない。

あるはずのない心臓が、高鳴る音が聞こえた。

 

「………マスター…」

 

好きです

 

と、言えたなら、こんな苦しい思いはしなくても済むのだろうか。
この言葉に詰められる気持ちは、マスターを慕うボーカロイドの域を超えている。
そんな想いは、マスターには伝えることが出来ない。
困らせるだけだと分かっているから。

 

(本来ありえない気持ちだと、分かっているから)

 

マスターは、僕を決して人とは見ない。
かと言って、ボーカロイドとして道具の扱いをしたこともない。
普通に、人と同じ様に接するのに、僕がボーカロイドで有る事を忘れてはくれない。
だからこそ、僕をそういう対象としては見てくれない。

 

「マスター、マスター」

 

強く抱きしめる。

マスターは、僕の事を好きにはなってくれない。
家族として愛してくれるだろうけれど、僕が望むのはそれじゃない。

マスターが僕以外の誰かに笑いかけるのを想像すると、何かが締め付けられる気持ちになる。
いつか、マスターの隣に僕の知らない人が立つのだと思うと、僕は

 

(……いっそ、このまま僕の手で)

 

マスターを奪ってしまいたくなる

その瞳に、僕じゃない人を映すなら

いつか、置いていかれてしまうなら

 

マスターが僕に触れるたびに、強く思う。

だけど、そんな事を実際に出来るはずもなく

 

(そんなことを、したら……二度と)

 

マスターの笑顔を見れなくなる

マスターが僕の名前を呼んでくれなくなる

マスターのこの温もりが二度と感じられなくなる

マスターが愛してくれなくなる

 

「カイト」

「!」

 

マスターの顔を覗き込むと、マスターはしっかりと目を開いて僕を見ていた。
眠ったと思って居たのに、起きて居たのか

それとも、僕が起こしてしまったのか

 

マスターの漆黒の瞳には、僕の色しか映っていない。

作られた、青色。

 

「……何ですか?マスター」
「いや…好きだなぁ、って」

 

ずきっと、心臓はないはずなのに胸が痛む。
その好きは、僕の好きとは違うと分かっているのに、少しでも嬉しいと思ってしまう。
それがたまらなく苦しくて
だけどそれをマスターに悟らせないように、無理やり笑顔を作った。

 

「僕も好きです、マスター。」

 

すると、マスターの顔はどこか辛そうに歪んだ。
どうしてそんな顔をするのだろう。
もしかして、僕の気持ちを知ってしまっているのだろうか。
それに答えられないから、つらそうな顔をしているのかもしれない。

マスターは優しい人だから

ああ、また胸が痛む。

狂おしい気持ちが思考を支配する。

こんな顔を、させるくらいなら、いっそ

 

(僕が壊れるか、マスターを)

 

僕が一体どんな顔をしていたのか、僕にはわからなかった。

マスターがどんな思いで僕の顔を見ていたのか、わからなくて

 

人の気持ちを理解するはずのボーカロイドなのに、僕は壊れていた

 

「……そんな、泣きそうな顔するなよ」

 

マスターの言葉が、一瞬意味がわからなかった。

 

「お前は、俺のボーカロイドだもんな」

 

どくんと、体中の血が沸き立つような気がした。
マスターは、何を言おうとしているんだろう。

 

「俺の願望を叶えるボーカロイドだもんな……」

 

さっき僕が泣きそうだといったけれど、マスターの方が泣きそうです。
そういいたいのに唇が動かない。声帯が震えない。

 

「いいよ、無理しなくて。俺がおかしいんだ」

 

何を言っているのかわからなくて、思わず首を傾げたくなる。
けれど寝ている状態じゃそれも出来なくて、ぽかんとした表情で見る事しかできなかった。
マスターが何を言いたがっているのかわからなくて。

 

「お前は人じゃなくてボーカロイドだってわかってんのに……そのお前が好きだなんて、おかしいよな」

 

唐突に、マスターと一つになりたいと思った。
そうすればきっとマスターの考えていることも分かるはずで。
マスターの体に流れる血を飲んだなら、僕はマスターの気持ちがわかりますか?
僕が貴方に壊してもらえたなら、僕は貴方の気持ちが分かりますか?
どうやったらマスターと一つになれますか?
そうすれば僕は、マスターに愛してもらえますか?

 

「マスター、僕は貴方が好きです。」
「……………」
「誰よりも、何よりも貴方が」

 

強くマスターを抱きしめる。

このまま一つになってしまえたらいいのに

マスターに、この想いが伝わればいいのに

その暖かい心臓に直接口付けたなら、伝わるだろうか

 

 

 

僕の腕の中で震えるマスターを見ながら、いつか僕はマスターを殺してしまうかもしれないと呆然と思った。

 

 

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ギリギリなのかヤンデレなのか曖昧になってしまったorz
マスターとカイトは想いあってますが、互いに気付いてません。
匿名希望さんのリクエスト、カイトがヤンデレでギリギリな感じでしたー。

リクエスト、ありがとうございました!