「マスター?早く起きないと、遅刻しますよ?」
「うー……」

 

マスターは、カイト兄さんの声じゃないと起きないらしい。

 

 

 

そんな日常

 

 

 

「あれ…レン、マスターは?」
「起こしたけど…起きてくれませんでした。」

 

起こし方が悪いのかとも思うけれど、いつもマスターを起こすのはカイト兄さんの仕事だ。
マスターは低血圧で朝に弱いらしく、早く起きるのが辛いらしい。
今日は兄さんが朝食を作っているので僕が起こしに行ったけれど、案の定起きてくれなかった。

 

「兄さん、いつもどうやって起こしてるの…?」
「普通だと思うけど…じゃあ、一緒に起こしに行こうか。準備できたし。」

 

テーブルにマスターの朝食を並べ終わった兄さんと一緒に、マスターの部屋に向かう。
マスターの部屋では、リンがマスターを起こそうとがんばっていた。

 

「マスター、朝だよー!起きないと、バイト遅れちゃうよー?」
「うぅ………」
「ま、す、たー!!」
「………うぁ……」

 

耳元でリンが大きな声を上げるけれど、マスターは唸るばかりで起きる気配が無い。
リンがわざと大きな溜息を付くと、マスターはもそもそと掛け布団を顔にかけた。

 

「……カイトお兄ちゃん……。」
「だ、大丈夫だから、リン。マスター、ちょっと朝は機嫌が悪いだけだから。」

 

うるっと涙目になったリンを焦って慰める兄さんを横に、とりあえず僕も起こそうとして、マスターを揺さぶった。

 

「マスター、朝だよ。起きないと遅刻しちゃうよ。」
「……………うー………」
「……マスター、ねぇ、マスター。」

 

徐々に揺さぶるのを大きくすると、マスターががばっと起き上がった。
突然でびっくりして一歩下がる。でも、起きたからよかった、と思った次の瞬間

 

「…………う……貧血……」
「マスター!?」

 

ふらっと、そのまま後ろに倒れこんだ。
突然起き上がったから貧血になったらしく、結局マスターはまたベッドに沈んでしまった。
僕の起こし方が悪かったのかもしれない、と思って俯くと、カイト兄さんが頭をなでて優しく微笑んでくれた。

 

「大丈夫、マスターはちょっと…かなり、朝が弱いだけだから…」

 

苦笑してそういうと、今度はカイト兄さんが起こしにかかった。
一番マスターと長く居るのは兄さんで、マスターの事を知り尽くしているのも兄さんだ。
どうやって起こすのかなぁ、と、リンと目を合わせてから、兄さんとマスターに注目した。

 

「マスター、大丈夫ですか?朝ですよ、起きないと。」
「うぅ…………」

 

マスターはうつぶせになって、眠い、と小さく呟いた。
カイト兄さんが優しく囁くように、マスターに諭しながら背中をさする。

 

「マスター、このまま寝たままだと、一生起きれなくなりますよ?」
「……………」
「ね、マスター。ご飯食べましょう?バイトから帰ってきたら、マスターの好きな食べ物作りますから。ね?」
「……………ん……」

 

のそのそと、カイト兄さんに支えられながらゆっくりとマスターが起き上がった。
その顔は恥ずかしいような、不機嫌なような、複雑そうな表情で。
僕らを見て、ごめんな、と呟いてわしわしと乱暴に頭をなでて、マスターは顔を洗う為に部屋を出て行った。

 

「……え、どうして今ので起きるの?」
「さあ……僕にもわからないよ。」

 

カイト兄さんに答えを求めて二人で視線を送ると、兄さんは少し恥ずかしそうな笑みを見せた。

 

「マスターの性格をもっとよく知れば、二人にもわかるよ。」
「そうかなぁ……?」
「あ。」

 

リンが首を傾げるのをよそに、僕は気付いてしまった。
多分、リンは気付いていないけれど、僕は知っているマスターと兄さんの二人の関係に。

 

「……マスター、天邪鬼だから……」
「………そんな理由で?」

 

ごまかすように、カイト兄さんが呟いた。
リンが小さく、マスターの後を見ながら呟いて、呆れたように溜息を漏らす。
言った本人のカイト兄さんは乾いた笑いを漏らしながら、僕とリンをつれてリビングに出た。

多分、それだけが理由じゃないと思う。
僕の推測はおそらく正しい。

 

「ねぇ、兄さん。」
「ん?何、レン。」

 

リンに気付かれないように小さく、カイト兄さんに呟いた。

 

「次から、マスターを起こすのは兄さんの仕事だね。」
「はは……そうだね。」
「おはようのキスでもしてあげたら?」
「!?」

 

ぼっ、とカイト兄さんの顔が真っ赤になったのを見て、にやりと口の端を吊り上げる。
どうやら推測は当たったらしい。リンは気付かずに、テーブルに兄さんが用意していたリン用のデザートに夢中になっていた。

 

「な、な…れ、レン、いつ……!」
「わー、兄さん真っ赤だよ。あ、マスター、兄さんが……」
「わー!!!」

 

兄さんの後ろに立っているマスターに声を掛けると、兄さんが大げさに驚いて振り返った。
真っ赤な顔の兄さんと、怪訝そうな顔のマスターがぱちっと目を合わせる。

 

「どうした?カイト。」
「なっ……なんでもありません!!」

 

がしっと僕の口を塞ぎながら、慌てたカイト兄さんはマスターの気を逸らそうと、「朝ごはんはテーブルに用意してありますよ!」と大きな声で言った。
煩そうに一瞬マスターが目を細めて、未だ眠いのかふらふらした足取りでテーブルに向かうのを見て、カイト兄さんはあからさまに息を吐く。

 

………今日から、これで遊べそうだな、と思って、カイト兄さんに口を塞がれたままにやりと口の端を吊り上げた。

 

 

 

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小悪魔なレン君に振り回される予感のカイト。
マスターとカイトはまぁ既に結構な関係です。
そしてマスターはカイトの声じゃないと起きたくないという我儘な人です。(ぇ
葉桜さんのリクエスト、レンかリン視点のカイマスでした!
余りラブラブしてなくてすみません……orz

リクエスト、どうもありがとうございました!!!