そういえば、俺が見たことのあるバージルの笑顔は、嘲笑しかない気がする。

 

 

 

その言葉が

 

 

 

「バージル。笑ってみろよ」
「………なんだいきなり。」

 

突然妙な事を言い出した弟に、不審そうな目を向けてやる。
いたって真面目な表情をしたダンテがソファーにだらしなく座っていて、思わず座り方を注意した。

 

「そういや、俺アンタの笑った顔って見たことねーと思って。」
「くだらん」

 

ばっさりと切り捨て、再び夕飯の支度に戻る。

 

「そんなに笑顔が見たければ、鏡に向かって笑いかけろ」
「それじゃ意味ねーだろ」

 

後ろから抱きつくように腕を絡め、ダンテが肩から顔を出す。
動きづらくてしょうがないが、離れろと言って素直に離れる奴ではないので無視をする。

 

「なー。笑えって」
「触るな」

 

頬を指でつつかれて、イラッとしてその指を払う。
それに気を悪くしたらしいダンテは、渋々手を離して、ソファーに座りなおした。

 

「そもそも今更何を言い出す。」
「いや……昔の夢見てさ」

 

昔、という言葉に反応して、一瞬手を止める。
首だけ振り向いてダンテを見やると、懐かしむような表情をしていた。

 

「アンタも昔は普通に笑ってたよな」
「…………」
「って思ったら、久しぶりに見たくなったんだよ」

 

それだけ。と呟いて、酒の入ったグラスをあおる。
少しの間を置いて、再び食事の準備を始めた。

昔のことを覚えていないわけではない。
が、あれから色々とあった今、昔のように笑えと言われて笑えるほど素直に育ったわけじゃない。

自分は悪魔であり、ダンテも悪魔なのだ。

 

(……アイツは人間らしいがな)

 

自分とは違い、表情も豊かで社交的な弟。
実際に見た訳ではないが、涙を流すことも出来る。
なのに、色濃く父親の血を受け継いだ、半魔。

 

「……ダンテ」
「あ?」
「お前はそのままでいい」
「は?」

 

突然何を言い出すのかと、ダンテが首をかしげてこっちを見るのと同時に背を向ける。
しかし後姿からはどんな表情をしているのか読み取れなかったらしく、少し眺めた後直ぐに視線を元に戻した。
その姿を横目で見て、ふっと口元を緩める。

 

 

 

 

昔から変わらずに居てくれる愛しい弟を想う

きっとこれからも、傍に

 

 

 

 

「……でも今のアンタが素直に笑ったら気持ち悪いかもな。やっぱり良いや。」

「……死ね。ダンテ。」

「うぉっ!!テメェ、包丁投げるのは止めろ!」

「これなら良いか?」

「それアンタの愛用の刀じゃねぇか!もっと駄目だろ!」

 

やっぱり少しは変わるべきだと、思い直した。

 

 

 

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珍しく優しい(?)お兄ちゃん。
ダンテは根本的には昔から変わっていないといいと思います。
そして二人のコミュニケーションは喧嘩が中心だと良いと思いまs←
匿名希望さんのリクエスト、バジダンで甘でした。

リクエスト、ありがとうございました!!