「え……雲雀さんが?」
「うん。ついさっき帰ってきたよ」
ボンゴレが笑顔で教えてくれたことに、突然胸が高鳴った。
暫く日本へ帰っていた雲雀さんが、一ヶ月ぶりにイタリアへ戻ってきてたなんて!
「てっきり、ランボに連絡行ってると思ったんだけど」
ボンゴレの何気ない一言がちくりと胸に突き刺さる。
眉をハの字に曲げるとボンゴレは慌てた様子でフォローしてくれたけど、事実だから仕方が無い。この一ヶ月、雲雀さんは俺に一切連絡をくれなかった。
俺と雲雀さんが付き合ってまだ間もないうちに、ボンゴレからの依頼で雲雀さんは日本で仕事をしなければならなくなった。
ボンゴレは俺と雲雀さんの関係を知らないし、俺も雲雀さんも口外していないから当たり前なんだけれど。
やっと、ずっと片思いしていた雲雀さんと恋人という関係になれたのにと思わずにはいられない。
けれど雲雀さんは暫く俺と離れても平気なようで、何時もと変わらない様子で日本へと発って行った。
(携帯番号もメルアドも知らないしなぁ)
ボンゴレの部屋から出ながら携帯をいじるけれど、電話帳には雲雀さんの名前は無い。
そんな状態で連絡が欲しいというのも無理な話だと分かっているので、連絡が無かったことはこの際どうでもいい。雲雀さんは、帰って着た。
これからはまた一緒にいられるのだから。
(やっぱり雲雀さんの屋敷かな)
帰って直ぐボンゴレの屋敷に来るとは思えない。
雲雀さんは常に自分を優先して行動する人だから、きっとボンゴレへの報告よりも先に自分の部下達の様子を見に行ったはずだ。
携帯をポケットにしまって走り出す。
早く、少しでも早く雲雀さんに会いたくて。
「え……戻ってきてないんですか?」
「ああ」
雲雀さんは屋敷には居なかった。
雲雀さんの右腕である草壁さんに聞いてみたところ、雲雀さんがイタリアへ戻ってきたということ自体初めて聞いたらしく、驚いた様子で頬を掻く。
まさか草壁さんも聞いていないとは思わなくて、俺はあてが外れたことで雲雀さんの行方を見失ってしまった。
「帰ってきているなら、暫くすればここにも顔を出すとは思うが」
「でも、直ぐに会いたいんです」
草壁さんには直接雲雀さんとの関係は話していないけれど、何となく気付いているようで俺の言葉に困ったように眉根を寄せた。
俺よりも草壁さんの方が雲雀さんの事は知っている。
どこか行きそうな場所はないかと訪ねてみると、草壁さんは少し悩んで教えてくれた。
「沢田綱吉の屋敷にも居なかったのならば……キャバッローネかもしれないな」
「跳ね馬のところですか?」
「今回の日本への帰国には、キャバッローネの依頼も含まれていたという話だ。先にあっちに報告に行ったのかもしれん」
「ありがとうございます!」
頭を下げてお礼を言ってから、また走り出した。
少し跳ね馬へヤキモチを感じたけれど、仕事なら仕方の無いことだ。
確か今はボンゴレと話し合いをする為に、近くへ来ているはず。
ボンゴレへ連絡を取ってキャバッローネの居場所を聞いて、全速力で跳ね馬のいるホテルへと急いだ。
(早く、会いたい)
もう一ヶ月も雲雀さんの声を聞いていない。
俺の頭をなでる手の体温も感触も忘れてしまいそうだ。
俺の名前を呼びながら、柔らかく微笑むあの表情を思い出す。
(早く あいたい)
ただそれだけを考えて
「ついさっき、ツナのところに行ったぜ?」
「えぇ…!?げほっ……はぁ……」
「オイ、大丈夫か?」
「だ、だいじょうぶです」
息が苦しくて喉が痛い。
深呼吸をして息を整えながら、ショックで俯き膝を折った。
(……どうして)
なんでこんなに会いたいのに会えないんだろう。
俺は雲雀さんに会いたくてしかたないのに、どうして?
もしかして、雲雀さんの方が会いたくないと思ってる?
そういえば俺の携帯に雲雀さんのメモリーが入ってないのは、前に聞いたときに教えてもらえなかったからだ。
どうしてなのか、理由も教えてくれなかった。
(…俺と雲雀さんって)
恋人 の はず
「それにしても……恭弥、日本で何かあったのかもな」
「え……どうしてですか?」
「かなり機嫌悪かったからな。」
報告書の確認に少し手間取っただけで殴られそうになった、とキャバッローネが苦笑する。
雲雀さんの機嫌が悪いのなら、なおさら俺の事なんて考えてもらえてないに違いない。
俺の事は、もう頭にも無いのかもしれない。
(……俺みたいな子供、雲雀さんが相手にするわけない し)
一度の告白でOKしてもらえたから、夢を見た。
よく考えれば、雲雀さんは全く変わった様子が無かったように思える。
好きだから俺と付き合ったんじゃなくて、なんとなく俺と付き合ったのかもしれない。
暇潰し、とか。
(うわぁ、今、自分の言葉で傷ついた。)
泣きそうになるのを堪えながら、跳ね馬にお礼を言って走り出す。
それでも、やっぱり雲雀さんに会いたくて
「ボンゴレ!雲雀さん来ませんでしたか!?」
「まだ会えてなかったの!?今さっき、早足で雲雀さんの屋敷に戻って行ったよ。多分、追えば追いつくと思うよ」
「ありがとうございます!」
息を整える時間も惜しくて、勢いよくボンゴレの部屋を出た。
長い廊下を駆け抜けて雲雀さんの屋敷を目指す。
元々歩く速度が早い雲雀さんが早足で歩いているとなると、俺は全力で走らないと到底追いつくことなんかできやしない。
とにかく雲雀さんに会いたい 会いたい 会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい
「わぷっ!?」
角を曲がった瞬間人にぶつかって後ろによろける。
なんだか、前にもこんなことがあった気がする なんて思いながら衝撃に備えて身体を固まらせていると、俺の腕を誰かが掴んだ。
「君、ちゃんと前を見たほうがいいって何回言わせるの」
目を見開いて顔を上げる。
ああ、そうだ、前もこんなことがあった。あの時もこうして 助けてもらった
「雲雀…さん」
「今まで何処にいたの」
雲雀さんは跳ね馬が言っていたとおり随分と機嫌が悪いようで、眉間に皺が寄っていた。
焦ってきちんと立ち背筋を延ばすと、雲雀さんの手が俺の腕から肩へと移動した。
「何処にいたの」
「ひ、雲雀さんを探してて」
「僕を?」
「最初、ボンゴレの部屋に居たんですけど…雲雀さんが戻ってくるって聞いて、てっきり雲雀さんの屋敷に戻ってくるのかと思って……」
そして草壁さんに話を聞いてキャバッローネのホテルへ行き、そこからまたボンゴレの部屋へ戻り、現在に至ることを説明すると、雲雀さんは疲れきったような溜息を吐いて脱力した。
どうしてそんなに疲れているのかわからなくて、あわあわと一人で動揺して雲雀さん、と名前を呼んだ。ふわり と俺の頭をなでる雲雀さんの優しい手
「君を探してたよ。ずっと」
さっきまで俺は雲雀さんになんて思っていたんだかさっぱり思い出すことが出来ない。
この言葉だけで全てを忘れるなんて、都合のいいヤツだと思われてもしょうがない。
それでも とても 嬉しくて
「一番最初に君の部屋に行ったのに」
「え」
「僕の屋敷に行ったのかと思って行けば、キャバッローネのところにいったなんていわれるし」
「えぇ?」
「急ぎすぎて途中で追い越したのか、君より先に着いてしまうし」
「えぇ!?」
「引き返してみれば、すれ違わずに綱吉の部屋まで着いてしまうし……ねぇ、君一体どの道を通ったの。まさかわざわざ遠回りしたわけ?」
「え、いや、俺、道よくわからなくて……」
「こんなに腹立たしいのは久しぶりだよ。どうしてくれるの」
むすっとした表情の雲雀さんが俺を睨みつけたけれど、何故か俺はそれをかわいいと思ってしまった。
(だいすきです ひばりさん だいすきです!)
Time is not waiting!!
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TAMUさんのリクエスト、互いに互いを探して走り回ってなかなか出合えない話でした!
ランボが振り回されて居る様で実は雲雀さんが振り回されているタイプの話が大好きです。
そしてむすっとした表情で拗ねる雲雀さんがかわいいと思うランボこそかわいいと思います。リクエスト、どうもありがとうございました!