「テメェ、自分が何を言ってるのかわかってるのか」

 

嵐の守護者に胸倉を掴み上げられ強く下から睨まれる

その目には絶望と焦燥感がありありと見て取れて ああやっぱり弱いなどとぼんやりと思った

 

 

 

手を延ばせば

 

 

 

「ランボが拉致されました」

 

綱吉が声を震わせて呟いた言葉にその場にいた人間の空気が凍る
しかし自分だけはその言葉を聞いても平然としていた
何故か、その言葉を聞いても危機感を全くと言っていいほど感じなかった

 

「向こうは交渉にも応じません…このままじゃ、ランボが」

 

何よりも仲間を失うことを恐れる彼は青ざめ、拳を震わせて泣きそうな表情で呟いた
それに呼応するように獄寺隼人も表情を苛立たせ机を強く拳で叩く
悔しそうに唇を噛み締める山本武を横目で見て、こいつらは何を切羽詰っているんだろうかと考える

特に、何の問題もないように思えるのに

 

「だから、何?」

 

思わず本音が口を突いて出ると一斉に批難する視線が僕に浴びせられたが、こんな視線は昔から慣れている
激昂しやすい獄寺は思ったとおり直情的になり、怒りで僅かに頬を紅潮させた

 

「雲雀……今の状況をわかって言っているのか」
「笹川よりはね」

 

咎めるように肩を掴んだ笹川の手を払いのけながら、コツコツと靴音を響かせて綱吉の前まで歩み出た
わざわざ呼び出すから一体何かと思えばこの程度の事
暇潰しにもなりはしないだろうに全くもって時間の無駄だ

 

「……ランボは、殺されるかもしれないんですよ」
「ふうん」

 

さらりと唇から零れた言葉には何の動揺も無い
綱吉は目を見開いて驚いたように僕を見た後、珍しく額に炎を宿していないのに鋭い視線で僕を睨んだ

 

「あんなに、ランボは貴方を慕っていたじゃないですか」

 

それなのに、何も感じないんですか?と言われて僅かに考えてみる
ちょろちょろと後ろをくっ付いてきては、甘ったるい声で僕の名前を呼び甘えてくるあの子供
昔の綱吉よりも泣き虫でドジで、誰かが居なくては生きていけない人種だろう
この状況で及ぼす影響なども考えてみる が、やはり

 

「別に、何も」
「っ…テメェ!!」

 

堪えきれなくなったのか、獄寺が荒々しく僕の胸倉を掴み上げた
一瞬息が詰まるが僅かに姿勢を逸らし気道を確保する
じろりと睨みつけたがそれも跳ね返す勢いで獄寺は睨み返してきた
唇がわなわなと震えているところを見ると何か話したいらしいが、興奮しすぎて上手く言葉を紡げないようだ

 

「テメェ、自分が何を言ってるのかわかってるのか」

 

一体何を言っているんだろうか、馬鹿でもあるまいし
自分が何を言っているのかわからないような愚かな人間ではないと自負している
胸倉を掴む手を振り払い、息を吐いてネクタイを調える
歯を食いしばり睨みつける獄寺はまるで獣のようで、僅かに気分が高揚した

 

「勿論 僕から見れば君達がこの程度の事で何を焦っているのかわからない」
「仲間が死ぬんだぞ!テメェ、それなのになんでそんな冷静でいられんだ!」
「獄寺、落ち着け!」

 

山本が今にも襲い掛かりそうな獄寺を取り押さえた
ここで乱闘になっても面白そうだったが、それよりも僕にはやることがある

 

「ねぇ綱吉」
「……はい」
「ランボはもう死んだのかい?」
「死んでません!」

 

ゾワリと背筋が震えたのは気のせいではないだろう
あの温厚な綱吉が激昂し、殺気を僕に向けたのだ
いつもこうならばもっと興味もそそられるというのに、素の性格が優しすぎてつまらないのはもったいないことだ

 

「死んでいないのにどうして死ぬと決め付けているのか僕にはわからない 説明してくれる?」
「な……ランボは敵に拉致されたんですよ?交渉も決裂…あいつらはボンゴレの守護者を殺したという名声がほしいだけなんです躊躇なくランボは殺されてしまう」
「だから まだ殺されたわけじゃないだろう」

 

イライラしてきて頭が痛む
馬鹿じゃないの本当に綱吉は昔から頭の回転が遅いというか勘は悪くないはずなのに結論に辿り着くまでに時間がかかる

その結果にばかり気を取られて、過程に目を向けていない

 

「奴等のアジトは何処」
「み……港の第五倉庫です」
「術者を2人借りるよ。出口を幻術で消してもらう」
「え、あの」
「折角箱の中に自ら入ってくれてるのに、出口があるんじゃ逃げられるからね」
「そうじゃなくて、雲雀さんまさか」
「君達は此処で何時までも無力を噛み締めてればいい じゃあね」

 

馬鹿だ こいつらは本当に馬鹿だ

まだ殺されていないじゃないか まだ生きているのにもうその命は救えないと諦めている

もとより僕は話し合いは得意じゃない こういった乱暴な手段の方が性に合っている

 

ランボが殺される前に救えばいい それだけのことだろうに

 

「待ってください雲雀さん!屋敷の出入り口は見張られているんです!術者が見て居るから幻術でごまかすこともできません雲雀さんが出て行ったらそこで敵に囲まれますよ!?」

 

唖然とした視線が背中を指す中足早に部屋を出る
直ぐに綱吉が追ってきて引きとめようと腕を掴んでくるが、無理やり振り払った

 

「雑魚が何人こようと問題ないよ」
「もしかしたらランボを人質にしてくるかもしれないのに」
「それなら好都合じゃないか 少なくとも僕が死ぬまでランボは殺されないじゃない」
「いくら雲雀さんでもランボを守りながらの戦いではあの人数は倒せません!二人で帰ってこれませんよ!」
「じゃあランボを守らなければいい」
「そ…それじゃ意味が…!」

「君、本当に馬鹿だね。ランボを先に逃がせば問題ない」

 

綱吉に視線をくれてやる時間も惜しく、足を止めずに話し続ける
僕の速度に着いてこれないのか、綱吉は軽く息を切らしながら小走りで追いかけてきていた
突然言葉が途切れたので諦めたのかと思ったら、強い力で腕を引かれて思わず立ち止まる

 

「何」
「まさか……ランボを助けた後、一人でその場に残るつもりですか」
「そうだよ」
「そんな、無茶です敵は俺の部下の数には及ばないまでもその半分以上は居るんですよ」
「ランボが逃げる時間くらいは稼げる」

 

綱吉は何かに気付いたような顔をして僕の腕から手を離した
これ幸いと歩みだそうとした瞬間、綱吉の言葉に一瞬からだが動かなくなる

 

「命を投げ出すほどランボが大切なんですね」

 

振り向いて、睨みつけた
綱吉は泣きそうな表情をしていて見て居るだけで不快になる

 

「俺馬鹿だった。雲雀さんはランボのことなんとも思ってないんだって思ってた」
「そうだね君は馬鹿だ。相当な馬鹿だ。」
「雲雀さんが本当は、凄く怒ってることにやっと気付きました。」
「もっと馬鹿って言われたいの、君は。」
「雲雀さん、いつからですか?ランボのことをそんなに好きになってたなんて、俺」

 

「そんなこと今更思い出せない」

 

それだけ言い捨てて屋敷の入り口を開け放つ

そこには推定百人以上の敵が待ち構えていて全員ニヤニヤと勝利を確信して笑っていた

今更一人が何を出来ると嘲笑っているのだろう 僕がランボを思って何も出来ないと思っているのだろう

 

どうせ殺されてしまうのならせめて最期まで足掻こう なんて僕が思うとは夢にも思わなかった

 

「悪いけど 今日は全力で生かせてもらうよ」

 

ランボの事を想えばいくらでも覚悟の強さが上がる
ボンゴレリングから立ち上る炎は僕がいつも灯す大きさの数倍になっていた
ちらりと綱吉を省みると呆然と目を見開いて立ち尽くしているだけで何の反応も見せない
それを見て口の端を吊り上げて、呟いた

 

「ランボのところまでの道は僕が作る ランボのことは任せたよ」
「え」
「途中で僕が死んだらの話だけどね」

 

綱吉の瞳に強い光が戻ったのを見てから地面を蹴りだす
匣を開いて愛用のトンファーを取り出して敵の真正面へと突っ込んだ

 

(君はまた泣いているんだろうから早く行ってあげなくては 安心させてやればきっと彼はまた笑う嬉しそうに幸せそうに笑うはずだから)

 

ああ 彼の事となるとこんなにも自分が弱気になるとは思わなかった死ぬなんてさらさら思ってないのに 可能性を提示する言葉を遺す とは

 

 

 

 

 

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TAMUさんのリクエスト、ランボがどこかのファミリーに捕まって、それを雲雀さんが他の全員の反対を 押し切って単身助けに行く話でした!
この後の話をランボ目線でいつか書くかもしれませn(ry
雲雀さん視点の部分を書いたら満足してしまいました 私が(殴
きっとこの後の雲雀さんの戦いぶりはかなり広まることでしょう。

リクエスト、どうもありがとうございました!