彼が綱吉と仲がいいことは知って居る
兄弟のように暮らしていた頃もあった程二人の間の絆は深い
僕はといえば彼との繋がりは無いに等しく、けれどもその絆を欲しいとも思わない
何故なら彼に対する恋心を自覚してはいるものの、彼が僕に囚われることを僕自身が望んでいないからだ
(そもそも彼は僕を恐れているし望んだとしても待っているのは終わりだけだ)
顔を合わせるたびに怯えた瞳を向けてくる彼を想いだし眉間にしわを寄せ重い息を吐く
彼との距離はとてもじゃないけれど縮められるとは思えない
そんな状態で彼を傍に置こうと考えたとして一体何が好転するというのだろうか
(手放せるうちに 諦めたほうがいい)
そう頭では理解しているが、彼を見るたびにその考えが揺らいでしまう
いっそ彼と顔を合わせることの無いように日本へと暫く発ってしまおうかとも考えたが、イタリアには着たばかりでまだ全ての準備を終えていない
そうこうしているうちに彼と顔を合わせ、その度に一つずつ想いが募る
けして全てが良い感情とはいえないけれども募ってしまう
(まさか僕が人を好きになるなんて思ってもみなかった)
今まで一度も他人にこんな感情を抱いたことは無い
だからこそ優しくすることが出来ず怖がらせるだけで何も出来ない
愛し方というものが根本的にわかっていない自分を知って居るだから早く彼を遠ざけたい のに
綱吉の部屋へとアジトの構造について話し合う為に足を向けたが、ドアの前で立ち尽くす
中からは楽しげに話す綱吉と彼の声が聴こえていた
だからといって躊躇う必要はどこにも無いのに腕はドアノブを握ったまま回そうとしない
(ほしい あのこが)
声だけで顔を思い出すことができるようになってしまうほど、彼とは顔を合わせていた
明らかに怯えた表情と涙を浮かべた瞳でそれでも僕を見据える彼を思い出し先走る気持ちを押さえ込む
思い出せるのが笑顔ではないのが 少し悲しい
「綱吉、入るよ」
「えっ、あ、雲雀さん!?」
ノックを一度して直ぐにドアを開くと、応接用のソファーに座っていた綱吉が慌てて腰を上げた
それに向かい合うように座っているふわふわの髪の毛を見つけたけれどそれに視線は向けずに綱吉を見た
「人に、武器庫や匣の実験場の構造を考えさせておいて随分と楽をしてるんだね」
「すっ、すいません…!あ、でも一応俺の担当部分は全部終ったんで…雲雀さんの了承をお願いできますか?」
「見せて」
慌てて綱吉が一枚の書類を持ち出し持ってくる
アジトの大まかな見取り図には守護者の名前や部下の名前が全て書き込まれていた
それぞれの部屋を決めるのはボスである綱吉の仕事だったが、今や何人いるか正確に数えることも難しいボンゴレの人間の名前を全て書き込むのは事務作業とはいえ辛いことだ
しかし綱吉は部下の名前も役職も全て覚えて居るらしくこの仕事を与えてから一時間で全て書き込むことが出来たらしいふと、その見取り図に彼の名前を見つけて目を奪われる
(………なんで)
「綱吉」
「はいっ」
「なんで僕の部屋が此処にあるの」
「え…と、簡単な書類とか…だったら、近い場所で処理できたほうがいいかなー、と……」
「部屋が有る事は別にいいよ。どうしてこの場所にしたのかを聞いてるんだけど」
「え」
びくり、とソファーに座ったままだった彼が肩を揺らして振り向いた
その目は不安を通り越して絶望を移していて少しばかり胸が痛む
けれど僕には彼にどうすることも出来ず、綱吉を睨みつけたままでいた
「だ、駄目ですか?その、できる限り出入り口にも俺の部屋にも近いところにしようと思って、その……」
「……そう。いいよ、別に。嫌なわけじゃない」
許可を示す場所に捺印をして書類を綱吉に返すと、あからさまにほっと安堵の息を漏らした彼に気付く
僕の部屋は、彼の部屋の隣になっていた
「じゃあ、この書類に目を通したら捺印して赤ん坊に提出しておいて」
「は、はい……もう戻られるんですか?」
「君と違って暇じゃないからね」
踵を返し部屋から出ようとドアノブに手をかけた
「あの、雲雀さん!」
とたん、背後から声をかけられて身体が硬直する
振り向けば、予想通りの声の主がソファーから立ち上がって僕を見据えていた
相変わらず怯えて震え、目には涙を一杯溜めたままで
「何か用?」
「あ…その……」
彼の視線が泳ぐ
斜め下に向けられた視線が、強い光を持って僕に戻った
「あの、部屋が完成したら、俺…あの、よろしくお願いします」
一杯一杯なのか顔がほんのりと赤くなっている
あの、と泣きそうな顔で彼が呟いた
(今 僕は一体どんな表情をしているの)
「……迷惑はかけないでよ」
漸く出てきた言葉を紡いで、直ぐにドアを開けて部屋を出る
早く彼から遠ざかりたくて仕方が無かった
きっと 僕らはこれが初めての繋がり
(関係が一つ繋がった ただそれだけなのに彼を抱きしめてしまいたい)
少し歩いたところで聴こえた小さな足音が彼のものだと気付くのに そう時間はかからなかった
僕らの速度で
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雨宮さんのリクエスト、ヒバランで両片思いでした!
最初もっとシリアス過ぎてオチがつけられなくなってしまったので、急遽内容をほのぼのするように変えてみましたがどうでしょうか…(汗
雲雀さんの心情がデレすぎているような気もしますが愛ゆえにだと言っておきまs(ryリクエスト、ありがとうございましたー!