「ツナ〜、遊んでよ〜」
十年前の綱吉との特訓(と言う名のバトル)の最中に、気の抜けた声が響いてきた。
ある程度の予想は付いていたものの、視線を向けると小さな子供の姿が目に入る。
この子供が十年後は自分の恋人になっているだなんて、見るたびに思うけれど信じられない。
硝煙とハチミツ
「あーっ!お前!」
ぱちっ、と小さなランボと目が合った次の瞬間、こっちを指差しながら小走りに近寄ってくる。
足にしがみついてきたのでとりあえず抱き上げてみれば、嬉しそうに目を輝かせた。この小さなランボが十年後バズーカーを使う時、かなりの確率で大きなランボは僕の傍に居る。
つまり入れ替わる度にこの小さなランボは僕と接触していることになる。
何故か小さなランボにも懐かれてしまったが、あのランボなのだと思うと悪い気はしないから不思議だ。
「やあ。久しぶりだね」
「オレっち元気だもんねー!なぁなぁー、遊ぼうよー。」
「今は駄目だよ。これあげるからまた今度ね」
そう言ってポケットから取り出したブドウの飴を握らせ、床に下ろしてやる。
飴で頭が一杯になっているらしいランボは、それを握り締めてパタパタと部屋の出口へと走っていった。
それを見送ってから、対峙して居た綱吉に視線を戻す。
「…………何、その顔。」
「えっ、あ、その」
「勝手に戻らないでくれる?まだ終ってないんだけど」
「すみませ…え、いや、それよりも今のって……」
額にあるはずの炎は消えてしまっている上に、呆然とした表情でこっちを見て居る綱吉に苛立ちが募る。
何が言いたいのかが分かっているから余計に腹が立ってしょうがない。
十年後の綱吉も、ランボと僕の関係に気付いた時は同じ様な反応をしたからだ。
「今のが、何?」
「……飴、いつも持ち歩いてるんですか?」
「癖でね。」
「……雲雀さんが、食べて」
「そんなわけ無いだろあんな甘いもの。」
「ですよね……じゃあ、なんで」
「無いと駄々をこねるのが居るんだよ。」
大きなランボを思い出し目を細める。
作戦の為とは言え、こうして数日離れることをランボに説明して居たのならどういう反応を見せたのだろうか。
きっと嫌だといって泣きそうな表情になるだろう。
安易に想像できて、思わず口の端を緩めて小さく笑った。
「早く準備してくれる?さっさと始めたいんだけど」
「あ…っ、あ、はい。すみません…!!」
慌てて瓶を取り出して錠剤を飲む綱吉を見てから、出入り口に目を移す。
ちら、と顔をのぞかせた小さなランボに溜息を付きながら、トンファーを構えなおした。
「悪いけど、今日は早く終らせるよ。」
さっさと綱吉を叩きのめすべく、綱吉との特訓を再開する。
決着がつくまでの間、ランボはずっとドアの外から中をうかがっているようだった。
「なーなー、終わり?終わり?」
トコトコと入って来たランボを見て、それから綱吉に視線を移す。
ぐったりとした表情を見たところ、今日はこれ以上続けることは出来ないだろう。
「綱吉、今日は終わりにするよ」
「あ…ありがとうございました……」
綱吉がぺたんと座り込むと同時に、ランボは綱吉に向かって走って行ってしまった。
何となく腹が立ったが、子供のすることにいちいち苛立っていては仕方が無い。
自分とランボが恋人であるのは十年後の話なのだから。
「ツナー、アイツと仲いいの?」
「え?いや、仲がいいって言うか……」
ランボが唐突に綱吉に問いかけた言葉に、部屋から出ようとしていた足を止めて振り返る。
綱吉が何と言えばいいのかと悩んでいる間に、ランボが胸を張ったように見えた。
まさか、変なことでも言うんじゃないだろうね。
「オレッちはアイツと仲いーもんね!マブダチなんだぞ!」
綱吉はそれに驚いていたようだったが、その程度ならこちらとしては問題は無い。
少し嬉しく思う自分には驚いたが、とりあえず早く自室に戻ろうと部屋を出ようとしたときだった。
「飴くれるしー、優しいしー、遊んでくれるしー」
「え…ひ、雲雀さんが…?」
「あと、抱っこもしてくれるしー、頭なでなでもしてくれるんだぞ!」
「………雲雀さん…が…?」
綱吉の首がこっちを向いた。
その視線がとてもイラついたので、とりあえず殴る為に踵を返す。
しかしそれよりも先にランボを止めなくては不味い気がする。
十年後のランボは恥ずかしがってそういう事を他人には言わないけれど、子供ははやり違うのか。
「ねぇ、ちょっと君変なこと…」
「こないだなんてちゅーもしちゃったもんね!」
ぴしり。と綱吉が固まった音がした。
視線は既に僕からはずれ、宙を見て居る。
この際綱吉を気にするのは止めにしよう、と小さく溜息を付いて、ランボを後ろから抱き上げた。
「なー、オレッちとお前マブダチだもんな!」
「僕はそうは思ってないよ……あまり変な事を人に言いふらさないでくれる?」
「ふえ……!?マブダチ!マブダチなの!マブダチ!」
どうやら前半にショックを受けて、後半の言葉を聞いていないらしい。
マブダチ!と念を押すランボに溜息を付きながら抱えなおし、その手に飴玉を握らせた。
「早く大きくなってよね」
「ほぇ?何で?」
「君の中の僕の存在を、友達以外のところに置いてほしいから」
「友達以外ぃー?」
「尊敬とかね」
硬直したままの綱吉を放置して、ランボをつれて部屋の出入り口に向かう。
ランボは綱吉の事はすっかり頭に無いようで、僕の言葉に必死に頭を回転させているらしい。
「うー……オレっち、お前と一緒にいたいのに……」
「それなら他にも関係があるでしょ」
「どんな?」
「恋人とか」
「恋人…?」「だから、早く大きくなってよ。待っててあげるから」
ちゅ、と小さく頬にキスをすると、ランボの小さな頬がぽっと赤く染まった。
それを見て思わずくすりと笑いながら、ランボと一緒に部屋を出た。
こういう反応は十年後も十年前も変わらないのだから面白い。
飴玉をもう一つ手に握らせながら、自室に向けて廊下を歩いた。
(翌日何故か綱吉はランボをまともに見れないようになっていた)
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市藤さんのリクエスト、原作の10年後編の間の、10年後雲雀と現代ランボのちょっとした日常でした。
ちょっとした日常…というかなんか違くなった気もします…。
これはきっと十年後ランボとツーカーになった後の雲雀さんですね!
じゃなかったら嫌われるのを怖がって小さなランボを抱っことかしませんよぜっt(ry
どうもリクエストありがとうございました!!