バイト帰りに、コンビニでカイトへのお土産を買った。
特に理由はないんだけど、あえて言うならカイトが喜ぶかなー、と思っただけで。たったそれだけの理由でアイスを沢山買い込むあたり、かなり恥ずかしい気がしてきた。
サプライズ
「ただいまーカイトー。」
「おかえりなさい、マスター!」
ぱたぱたと、カイトが顔をほころばせて部屋の奥から駆けてきた。
それを見て思わずこっちも笑顔になりながら、カイトにコンビニ袋を突き出した。
「土産。早めに冷蔵庫にしまっとけよ。」
「え……あ、ありがとうございます!」
中身も確認しないで、ぱあっと輝いた笑顔を見せるカイト。
お土産を俺から貰うということが既に嬉しいことのようで、やっぱり何か恥ずかしくなって目を逸らした。
カイトが袋を持ってリビングに向かうその後ろを、ゆっくりと歩いて付いていく。
さっそく中身を見ようと袋を開いたカイトは、その体勢のまま固まった。
「……カイト?」
「あっ………アイスが…こんなに沢山……ッ!!」
どうやら感極まって、感情が爆発しているらしい。
今まで見たことが無いくらい輝いた目をしているカイトを見て、少し笑う。
喜んでくれたようでよかった、と思う反面、この顔を見る為だけに2000円分もアイスを買ってしまったことに溜息を付きたくなった。
財布の中はとても寂しい……けど、まあ、いいか?
「マスター、ありがとうございますっ!」
「いーから、さっさと冷蔵庫に入れてこいよ。溶けるぞ。」
「はいっ」
若干浮き足立っているようにも思えるほど、眼に見えて浮かれているカイトは小走りで冷蔵庫へ向かっていった。
その間に部屋着に着替えた俺は、リビングのソファーに腰を下ろす。
二人がけのソファーの真ん中にどかっと座ったところで、カイトがそわそわと傍に立っていることに気がついた。隣に座りたいのか?と思ってスペースをあけようと、少し腰を浮かせたところで、カイトが遠慮がちに口を開いた。
「あの……アイス、一つ食べてもいいですか?」
「………いいんじゃね?」
「ありがとうございます!マスター!」
夜中にアイスを食べることに抵抗があったらしいが、俺のお許しが出て嬉しそうにまた冷蔵庫へと駆けて行く。
折角なのでカイトの分のスペースを空けて座りなおしながら、長い溜息を付いた。
バイトを終えた直後ということもあって、とても疲れた。
甘いものでも食べたいなー、なんて思っていると、隣にカイトが腰を下ろす。ぎしりとソファーが軋む音がして、妙に隣にカイトがいるということを意識してしまった。
カイトを横目で見ると、おいしそうにスティック状のアイスを食べている。
味はソーダのようで、淡い水色をしていた。
しゃく、と一口食べてはおいしそうな顔をするカイトを、じっと見る。
(……まつ毛、やっぱり長いな…。唇の形キレーだよなー…ボーカロイドだし当然か。……なんか、ちろちろ見える舌が、エロ……)
「マスター……?」
「ッ……な、何だよ」
「そんなに見られると、恥ずかしいです……」
俺の下心(?)を察知したのか、と思わず口走ってしまいそうになったが、どうやらそういうわけでもないらしい。
視線に耐えかねたカイトは、俺の目から顔を隠すようにアイスを持ってない方の手で自分の顔を隠したが、耳が赤いので赤面して居る事は直ぐに分かった。
「あ……もしかして、マスター、アイス食べたいんですか?」
「え…。」
甘いものが食べたい、とは思っているので、否定はせずにカイトを見る。
冷蔵庫から持ってきてくれるのかな?と思ったら、カイトは自分が持ってるアイスを俺に突き出した。
「どうぞ。」
「……いいのか?」
「一口だけですよ?」
くすくすと笑うカイトからアイスを受け取って、しゃくりと一口食べてみる。
甘い、ソーダの味が口の中に広がった。
青色ソーダ。
不意に視線に入ったカイトの髪を見て、カイトもこんな味だったりして…なんて、くだらないことを考えてしまった。
「ん……美味いな。」
咀嚼しつつ、アイスを手に持ったまま眺めていると、俺の手にカイトの手が重なった。
え?と思って顔を上げると、直ぐそこにはカイトの綺麗に整った顔があって、俺は思考を停止してしまう。
(近……ッていうか、何……!?)
しゃくり
カイトが、俺の手ごとアイスを握ったまま、一口かじる。
薄っすらと開いている目蓋から、カイトが上目遣いに俺を見ていた。
どうしよう、持っているところから熱が伝わって、アイスを溶かしてしまうんじゃないだろうか。
「……美味しいですね、マスター。」
「ッ……馬鹿かお前!言えば直ぐ返したっつーの!」
「それじゃつまらないじゃないですか。」
くす、と笑うカイト。
お前、一体そんなテクを何処で覚えてきたんだと小一時間問い詰めたいところだが、それよりも早く手を離してほしい。
カイトの手はひんやりとしていて心地いい。
甘いその感覚に、手の神経が焼ききれそうだ。
「マスター。」
「な、んだよ」
「間接キスですね」
そう言ってにっこりと笑うカイトを見て、俺は顔が沸騰するんじゃないかと思うくらい熱くなった。
腹が立ったので、残っていたアイスを一気に一口で食べて飲み込み、カイトに「この馬鹿!」と吐き捨てて立ち上がる。
このまま自分の部屋に篭ろうと思ったのに、カイトがまだ俺の手を離そうとしなかったせいで、引っ張られてカイトの上に倒れこんでしまった。
「何がしたいんだよ、お前は!痛いっつの!このバカイト!」
「マスターと、もっと一緒に居たいです。駄目ですか?」
ぎゅう、と抱き込まれて、カイトが俺の手を解放したことに気付いた。
俺の手を掴んでいたはずのカイトの手はしっかりと俺の背中に回っていて、完全に確保された体制になっている。
アイスの棒は、と思って視線をめぐらせて見ると、カイトがゴミ箱に放り投げたらしく、溢れているゴミ箱の一番上に乗っていた。
器用な奴だな、なんてことを考えて必死に思考をカイト本人から外そうとするが、そうして考える事の端々にカイトが居ては意味が無い。
「……駄目ですか?」
(ああ、もう、畜生!そんな事言われたら断れるわけ無いって知っててやってんだから性質悪い!!)
これはもう、諦めたほうがいいだろう。
俺は観念して、今日のこれからと明日の休日を全部カイトにくれてやることにした。
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セクハラをしているのはカイトなのかマスターなのか分からなくなりました。
甘いのを目指して書くと、危うく夜の気配に飲まれそうになります……自制心を持とう!
虹星さん、リクエストどうもありがとうございました!
……ただ「カイトとアイスを食べるマスターを書くだけで」、こんなに甘くなるとは露にも思いませんでしt(ry