久し振りに、昔の夢を見た。

 

 

 

 

縋る手を掴む人

 

 

 

 

戻る居場所は無いのだと思い知らされた日の夢を見るのは、これが初めてというわけではない。

この夢を見るとき、いつも俺は幼い俺の背中を見ている。

覚醒夢というものらしく、俺は毎回これが何度目の夢になるのかを数え、そして訪れるであろう幼い自分の絶望をただ待ち続けるしかない。

そして目が覚めると気持ちの悪い動悸、そして酷い汗に毎回吐き気をもよおしてはその日はもう眠ることが出来なくなる。

 

この夢を見ると、自分がまだ過去に縋っているのだと思い知らされているようで気分が悪い。

 

「……ちっ……最近は見てなかったのに」

 

ここ半年ほど、昔の夢を見る事はなくなっていた。
その理由はわからないが、こうしてまた夢をみたということは、ようやく吹っ切れたと思っていた過去にまだ執着していたということだろう。

 

最初の頃こそ、ルークが、レプリカが居なければ自分があの輪の中に居たんだろうと思い恨んだこともあったが、今は寧ろ「アッシュ」という存在でいることが心地よくも感じていた。

 

ガイやナタリアとは以前の用には接することが出来ずにいるものの、だからといって今の関係に不安があるわけでもない。

 

(……あいつらが俺の存在を認めたから、か)

 

あのレプリカが自分はアッシュとは違うのだと認識していると知った瞬間から、俺は自分とルークを分けて考えるようになった。
それまでは同一視していたこともあり、だからこそ苛立つことも多かった。

 

『アッシュ』

 

不意に声を思い出し、どくりと心臓が音を強めた。

低く響く声が誰のものなのか、俺ははっきりとわかっている。

 

「-------ジェイド」

 

ルークたちの中で、誰よりも先に俺とルークが別人であること、そしてアッシュという存在の居場所を作った奴の名前を小さく呟く。

レプリカの技術は元々アイツのものだと知って、何故直ぐに対応できたのか納得したが、それ以上に俺はジェイドの態度に救われていたようだった。

こうして悪夢を見た時に、真っ先にあいつの顔が思い浮かぶ程度には。

 

「……………。」

 

急に鼓動が静まり、もう汗も引いていた。
変わりに喉が妙に渇く。
目を閉じて、息を吐いてから立ち上がり、水を取った。

冷たい水が喉を通るのを感じて、こくりと飲み下す。

 

「…今頃はアイツはグランコクマか」

 

会いたい、という衝動が急にこみ上げる。

思えば、俺が「アッシュ」という立場で頼れる大人といえばジェイドしかいない。

だからかもしれないが、無性にあの声が聞きたくなった。

 

(…ここからグランコクマまではそう遠くは無い…か)

 

ジェイドに会って何をするのか、自分自身でもわからない。

それでもただ会いたいという単純な理由の為に、俺はグランコクマへ向かうことを決めて眠りについた。