「…今、何て言いました?」
「二度も言えるか!!」
思わず聞き返すと、アッシュは思ったとおりきっと眉を吊り上げた。
わかっているくせに、と言いたそうな目で睨みつけられて、先ほどの言葉が聞き間違いではなかったことを確信する。
『お前に会いたいと思った』
と、彼は言った。
彼のプライドが高いことは、元貴族であること、今までの言動から容易に見て取れた。
そもそも弱みを見せること自体が本来の彼からすれば可笑しい行動で、だからこそ直ぐには言葉の意味を受け取ることが出来なかったのだが。
(私に、会いたいと)
ただそれだけで来たのだというその言葉の意味を探ると、まさか、という思いとともに一つの確信が浮かび上がる。
彼は私と同じ思いで居たのだろうか。
その感情の名前はわからないが、とにかく会いたいと。
顔を見て、声を聞いて、触れて存在を感じたいのだと
(……ああ、そうか)
アッシュの言葉のおかげで、ようやく自分の気持ちが整理できた。
この感情は久しく感じていなかったものであるのは確かで、そしておそらく初めてに近いものであるだろう。
「…私も、同じことを思っていました」
一瞬の間のあと、驚いたように目を見開いて顔を見詰めてくるアッシュを見て、ふっと微笑を零す。
「きっと、私は貴方が好きなんでしょうね」
「なっ……」
ぼっと顔から火が出るのではないかと思うほどの勢いで、アッシュの顔は見る間に真っ赤に染まっていった。
予想外の言葉を投げかけられたせいで、彼は先ほどの私と同じ様に言葉の意味を飲み込めないでいるらしい。
いや、飲み込めて入るが全てを理解してはいないのだろう。
「今こうして貴方と話をしていて、ふっと思ったんですよ。」
「っ…頭が沸いてるんじゃないのか…?」
「おや、それではアッシュも頭が沸いてらっしゃることになりますね。同じことを考えていたんですから」
「俺はお前が好きだとは言って無いだろうが!!」
「違うんですか?」
これは照れ隠しだ、という確信があった。
きっとそれは間違いないだろう。
そうでなければ、皮肉屋のアッシュのことだ。
冷笑を見せた後、皮肉を交えた言葉が返ってきていたに違いない。
彼は図星をつかれたときの嘘の付き方がヘタだということを、私は今までの経験で理解しているのだから。
「よくもそんな臆面も無く言えるな…」
「本当のことですから。隠すようなことでもないでしょう。」
そして、今言っておかなくては、という思いもあった。
彼はどこか生き急ぐところがある。
こうして伝えておかなくては、彼との次があるかはわからないのだから。
「答えはでましたか?」
「…………。」
「私と同じ気持ちで居てくださったらいいんですけどね」
アッシュは何故かわからなかった、と言った。
それは私と同じ様に、自覚していなかったからだろう。
けれど彼は、私よりもこの感情に関しては詳しいはずだ。
きっと気付きながらも見ないふりをしているんだろう。
(…それとも、私の思い上がり、なんて)
まだ、ナタリアのことが忘れられないようなところが見受けられたアッシュの行動を思い出す。
それでもいいと思っている自分に少なからず驚いた。
まさか、私がこんなにも情熱的な考え方を出来るとは。
(まだまだ若い証拠ですかね)
「ジェイド」
「はい?」
名前を呼ばれて思考から浮上する。
目の前には迷いが消えた様子のアッシュの目があった。
けれどまだ頬はほんのりと赤く染まっていて、うっかりかわいらしいなどと思ってしまう。
「触れてもいいか」
「……どうぞ。」
右手を差し出すと、アッシュは左手を重ねてきた。
手袋越しではあるが、確実に伝わる彼の体温に目を細める。
僅かな重みがこんなにも心地いいものだとは知らなかった。
「……お前に触れていると安心する。もっと触れていたいとも思う。」
ぎゅっと手を握られて、顔を上げた。
「この感情を、俺は知っている。」
「…私と違うものでしたか?」
「………いや」
同じだ、と、彼は消え入るような声で呟いた。
縋る手を掴む人
(こんなに簡単なことにどうして気付かなかったのだろうともっと早く気付くべきだったと 強く手を握った)
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匿名希望さんからのリクエスト、長編のジェイアシュでした!
…長編、と言うには短い話ですみませんorz
後ほど長編を書く構想を練ってますので、それでどうか許してくだs(ryリクエスト、どうもありがとうございました!