「おそようございます。」
「…………。」
「今日は珍しく遅かったようですね」
にっこりと目の前で微笑むジェイドを見て、一体自分は何処に居るのかと頭を悩ませた。
此処は俺の部屋で、俺はまだベッドに入って上体を起こしているだけで、つまり此処はバチカルの屋敷のはずだ。
使い慣れたシーツの香りも、部屋の内装も間違いない。それならば何故この空間にジェイドがいるのか。それが理解できない。
「寝ぼけているんですか?本当に珍しいですね。」
熱でもあるんですか?なんていいながら俺の額に手を添えたジェイドを睨みつける。
そんなわけが無いだろう、という意味を強く込めると、ジェイドは苦笑して手を引いた。
「何でテメェが此処に居るんだ」
「貴方の父上様に通していただきました。」
「………何の用だ。」
「おや。忘れているんですか?」
目を見開いたジェイドを暫く見て、その反応が嘘では無い事を確認してから思考をめぐらせる。
まず時計に目を向ける。そしていつも起きている時間より一時間ほど遅いのを確認してから、昨晩何を考えていたかを思い出す。
「………マルクトへの外交……」
「ああ、忘れたわけではないようですね。安心しました。」
「それは午後になってから向かうことになっていただろう。しかも、向こうで落ち合うことになっていたはずだが?」
確かに間違いないはずだ、と念を押して言いながら、服を着替えるべくベッドから出てクローゼットへ歩く。
背後にジェイドの気配を感じながら服を出した。
「そのはずだったんですが、ピオニー陛下から直々に迎えに行けと命令をくださいまして。」
「……この時間に?」
「ええ。昨晩急に。」
振り向くと、にっこりと笑顔を作ったジェイドがそこに居て、おそらく本人も不本意だったことが窺えた。
僅かに負のオーラが見えなくも無いその迫力に僅かに息を飲む。
「ご迷惑かとは思いますが、よろしくお願いします。」
「それはわかった。……服を着替えるから出ていろ。」
「今更恥ずかしがる間柄でもないでしょうに。」
「テメェ」
「ああ、アッシュ。前髪が跳ねてますよ。寝癖ですか?」
「叩っ斬るぞ。」
ジェイドが近づいてきて俺の頭に手を置いた。
不機嫌な表情を見せ付けるが、相手はわかっていてにやにやした面のまま遠慮しようとしないらしい。
それならば本当に斬り捨ててやろうか、と物騒な考えに至りながら、ベッドの横に置いてある剣に手を伸ばそうとした時だった。
「あまり貴方は私の前で寝ようとしませんからねぇ。」
「は?」
「無防備な貴方を見れたことは、あの人に感謝しなくてはいけませんかね…。」
「……オイ…」
恥ずかしさと呆れで気の抜けた声を返せば、ジェイドは頭に乗せた手で二度頭をなでた。
ジェイドにとってはまだ自分は子供なのかと思うと同時に、ジェイドが一体何がしたいのか分からず眉根を寄せる。
旅を終えてから結構な時間をジェイドと過ごしていて、何をしようか本人が迷っている時、ごまかすように頭を撫でることを発見した。
無意識に近い行為に恥ずかしがるような時間がとっくに過ぎた俺としては、それよりも何を迷っているのかが気になってしまう。
「何が言いたい。」
「……そういえば、ルークはどちらに?」
「数日前にダアトに行った。」
「なるほど。」
「……何がしたいんだ。」
「いえ、ちょっと確認を。」
確認、と言いながら俺の大きさを確かめるようにぽんぽんと腕や頭を叩くジェイドの行動が本当に意味がわからない。
こいつ、人に熱があるのかだのなんだの言っておいて、自分が風邪でも引いてるんじゃないだろうか。
しばらく同じことを繰り返していたかと思ったら、自分の中で整理がついたのか俺の目を覗き込んだ。
「会いたかったですよ、アッシュ」
「な………っ!」
不意打ちに近い言葉に、顔に熱が集まるのが分かる。
言葉を言い放った本人は何食わぬ顔でにこにこと俺の顔を見ていて、それがまた気に食わない。
「何せ、最後にあったのは三ヶ月前ですからねぇ。」
「………。」
「貴方は手紙も何も寄越しませんし。まあ、便りが無いのは良い証拠ともいいますが。」
「お前だって筆まめなほうじゃないだろうが」
「ええ、実際に会ったほうがいいに決まってますから。」
こうしてね。といいながら、ジェイドは自分の指に俺の指を絡ませた。
ジェイドの指から鼓動が伝わり、体温が徐々に同化する。
向かい合って、しかも立った状態で何をしているんだと思う反面、この手を離したくないとも思う。
唐突に自分が寝巻きのままで有る事に気づいたが、ジェイドが手を離す気配がないので、迷って視線を彷徨わせた。
「いつまでも慣れませんねぇ、アッシュは」
「慣れるほどこうしてるわけじゃないだろうが」
「そうですね、お互い距離がありますからたまに会える時にしかできない」
ぎゅっと手を握られて、一瞬驚きながらも握り返す。
すると嬉しそうにジェイドが微笑むから、釣られて僅かに頬が緩みそうになった。
「それでもこうして会えることがとても幸せだと思いますよ、アッシュ」
「……今度はどの本を読んできた。」
「マルクト三大悲恋の著名な本です。」
「ピオニーの趣味か」
「ご名答。よくわかりましたね。」
「これで丁度三作品目だからな。」
「よくできました。」
するりとジェイドの空いてる方の手が頬を撫でる。
次の行為を予想して、無意識に近い反射で目を閉じた。
今、この時
---------------------------------------------------------------
ゆうさんのリクエスト、両想いでらぶらぶなジェイアシュでした!!
ED後捏造で書かせていただきました…甘さ50%増しです。(当HP比)
らぶらぶなジェイアシュは滅多に書かないのでいい機会になりました(笑)リクエスト、どうもありがとうございました!!