例えば何気なく触れられた瞬間に高鳴る鼓動
嫌味じゃない笑みを向けられた瞬間

気が付けば、なんで、なんて自分に聞きたくなるほどに俺はジェイドにはまっていた。

 

「………なんでテメェらが此処にいやがる」
「本当はもう少し先へ進んだ場所で野宿をするつもりだったんですが、魔物に囲まれてしまいましてね」

 

苦笑いをしているジェイドの後ろで、息も絶え絶えなルークがいる。
ガイは何故か木の葉が頭についていて、まるで旋風にでもあったかの汚れ具合だ。
この状態での野宿はやめたほうがいいと判断したらしく、今は女性組みが宿を取っているらしい。

 

「貴方に会えたのは全くの偶然ですよ。いやぁ、偶然って怖いですねぇ。」

 

ニヤニヤと、妙に腹の立つ笑みを向けてくるジェイドを睨みつけて、踵を返した。
とりあえず早く離れてしまわなくては。

眼鏡越しにあるあの赤い目を見て居ると、どうにも妙な事を口走りそうになる。

 

(レプリカもガイも居るのにヘタな真似できるか…!!)

 

荒々しく地面を踏み鳴らしながら、出来る限り早足でその場から遠ざかる。
後ろからルークが呼ぶ声が聴こえたが、もちろん無視。
口元を手で押さえながら、小さく屑が、と呟いた。

 

「何が屑なんですか?」
「うおっ!?」

 

直ぐ耳元で声が聴こえて、耳を押さえて反射的に飛びのいた。
結構歩いたはずなのに、ジェイドがすぐ後ろに立っていた。
いつもと変わらない食えない笑顔でこっちを見て居るその表情に、やはり腹立たしいものを感じるわけで。

 

(俺が一杯一杯なことも、気付いてるくせに)

 

それを見抜いた上でからかうようなその視線に腹が立つ。
相手になどしていないのだと、その笑顔で牽制されて居るようだ。

面倒は持ち込むなと言わんばかりに

 

「何で着いて来るんだ」
「こちらに用がありまして。」

 

そう言ってジェイドが刺した方向を見ると、道具屋の看板が立っていた。
買出し当番なんですよ、と言いながら眼鏡を上げて、ジェイドは小さく笑った。

 

「………そうかよ。」

 

一瞬追いかけてきたのかと期待をした自分を恥じて、それだけ呟いてまた踵を返して歩き始める。
道具屋を過ぎて、真っ直ぐに街の外へと向かって歩いた。
もう追ってくることが無いのだと分かっていながらも振り向くと、既にそこにジェイドの姿は見当たらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

店の中から遠ざかる赤色を見て溜息を付く。
何故かこみ上げる喪失感に、自分に一体何が起きたのかと少なからず驚いた。

 

(私が言い訳のようなことを言う、なんて)

 

本当の買い物当番は私ではなかったのを、半ば強引に引き受けてまで彼の後を追いかけていた。

揺れる紅い髪を追ったはいいものの、どうやって話しかけるべきかと少しだけ戸惑って

声を掛けた直後のあの驚きようといったら、なんてからかいがいのある子供だろう。

僅かに紅く染まった頬と、苦虫を噛み潰したかのように歪められた顔。

それを見て何かが駆り立てられるようにざわついたのは、おそらく嗜虐心がうずいたからに違いない。

自分に言い聞かせるように思考を巡らせて、店の中から彼の背中に目をやった。

 

そこで見えたのは彼の背中ではなく、誰かを探すかのような彼の顔だった。

 

(どうしてそんな顔を)

 

思わず店の外へ出て、彼の元へ走ろうか。
一瞬そんな考えが頭を過ぎったことに硬直し、動揺する。
そうしているうちに彼は本当に街の外へと姿を消し、何故か胸が苦しくなる。

 

(……この感情は)

 

ありえない。
死霊使いと呼ばれるほど冷酷であるこの私が、あの子供に恋を?
そんなことはありえない。あってはならない。

 

(何より彼は、私の生み出した技術の犠牲者だ)

 

自覚しかけた感情をかき消して、自己嫌悪が襲ってきた。
これが私であり、先ほどまでの感情は私にはあってはならないものなのだと自分に言い聞かせ、眼鏡を上げる。

今更恋などと、甘い戯言を許されるわけが無い。

 

さっさと買い物を済ませて、宿に戻ることにする。

まだ頭に残る、縋るような彼の表情を忘れながら。

 

 

 

 

 

 

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ててとさんのリクエスト、余裕に見えて恋から逃げてるだけのジェイドと、愛を自覚しているからこそ逃げるアッシュでした!
しかし続きます。ハッピーエンドまで持って行きます(笑)