夜、寝苦しくて目を覚ます。

何か嫌な夢を見たような気がして、酷く気分が悪かった。

 

「……水……」

 

ぽつりと呟いてベッドから起き上がる。
声が掠れてしまうほど、喉が渇いていたようだった。
とにかく何か飲みたくて、眼にかかる自分の紅い前髪をかきあげながら立ち上がった。

近くのテーブルに置いてあるコップに水を注いで、水を口に含んだ。
こんなに気分が悪くなるほど、嫌な夢だったんだろうか。
どんな夢だったのか思い出そうとするけれど、ぼんやりとした雰囲気しか思い出せなかった。

 

(……そういや、ジェイド……が)

 

出ていたような気がする。
あの紅い目は、夢だとしても忘れない。
仮に夢に出ていたとすると、自分の中のジェイドの存在感はそれほど大きなものになっているんだろう。

 

逃げていた。とにかく、逃げていた。
とても怖かった。何かが怖かった。
ジェイドが怖いのではないことは確かだった。

そうだ、怖かったのは

 

「………あいつら、今何処に居るんだ」

 

すんなりと受け入れられたということは、事実だったんだろう。
今更自覚したところでどうとなるわけでもないが、それでもアッシュにとっては大きな一歩だった。

少なくとも、手は伸ばすことが出来るのだから。

 

怖くないわけじゃない。ただ、覚悟を決めただけだ。

夢に見るほどならば、今更無かったことになど出来ない。
先へ進まなければ、きっと死ぬまでこのままだ。

 

後悔はしたくない、と、アッシュは水を飲み干して覚悟を決めた。

次にジェイドに会ったときに、逃げ出すことのないように。

 

 

 

 

(俺が怖かったのは、嫌われることだったのか)