「それじゃあ、今年もお疲れ様でした!乾杯!」

 

綱吉の声とともに、グラスの音が鳴り響いた

 

 

 

 

EVVIVA!!

 

 

 

 

今年の仕事も全部終わり、あとは年が明けるのを待つばかりだ。
部下達に休暇を与え、屋敷に残っているのは綱吉とその家庭教師、そして守護者の面々のみ。
日本出身の綱吉が、守護者たちをねぎらう為に考えたのは大晦日に行う忘年会だった。

 

「ぷはーっ!美味いなー。ホラ、ツナも飲めよ!」
「そ、そんなに一気に飲めないよ!」
「そうだぞ山本!十代目は焼酎よりウォッカだ!ねぇ、十代目?」
「なんでそんなに強いお酒…!?いや、俺はカクテルでいいから…!」
「なんだ、だらしねーな。このぐらいぐいっと飲み干しやがれ。」
「リボーンは未成年だろ!飲むなよ…って一気飲み!?」
「流石だわリボーン……カッコイイ」
「見てたなら止めろよビアンキ!」
「極限いい飲みっぷりだったぞ小僧!」
「お兄さんも止めてくださいよ!」
「ボス……どうぞ」
「え……あ、ありがとうクローム……あれ?これ、なんてカクテル?」
「チェリーブラッサム……骸様が、ボスにって」
「………へ、へぇー………」

 

桜、という意味のカクテルを受け取って、綱吉は顔を引きつらせながらちらりと壁に背を預けている雲の守護者に目を向けた。
つい昔のようなノリに戻った面々へのツッコミを行っていたが、この人は昔から変わらない。
このカクテルも、本来は雲雀に向けてのメッセージであろうことが読み取れて、綱吉は雲雀が暴れだしやしないかと冷や汗をかく。
しかし予想に反して、雲雀は少々眉根を寄せたものの、一言も発することなく洋酒を飲むだけだった。

 

「………そういや、あいつも居たんでしたね。」

 

綱吉の視線の先を辿って、獄寺が小さく呟く。
こういった騒がしい席に雲雀が顔を出すことは全くと言っていいほど無かったのに、今日に限っては特別らしい。
結局は会話の輪に入る事無く、壁際で一人で飲んでいるのだが。

 

「そういえば、ランボって何処行った?」

 

山本がキョロキョロと辺りを見渡して呟いた言葉に、綱吉も辺りを見渡してみる。
特徴的な牛柄のシャツは見当たらず、ランボのものと思われる牛柄のコップが少し輪を外れたところに置いてあるだけだ。
何処に行ったのだろう、と思っていると、部屋にノックの音が響き渡った。
遠慮がちにドアが開き、ひょこりとふわふわの髪の毛が現れる。

 

「ランボ…何処に行ってたの?」
「おつまみとか色々と貰ってきたんですよ、ボンゴレ」

 

両手に抱えられた様々なおつまみに、了平が目を輝かせる。
輪の中心に皿を置き、その上におつまみを乗せた。

 

「ありがとう、ランボ。」
「いえ…一番の年少者ですから、このくらいは」

 

にこりと何時もの甘い笑みを見せて、ランボは自分のコップがあるところへと戻っていった。
綱吉はソレを見送って、おつまみに目を向けようとした瞬間だった。

 

「遅かったね」
「迷っちゃったんですよ」

 

今まで一言も発することの無かった雲雀が、ランボに口を開いたのだ。
思わず勢いよく振り返りそうになったが、そんなことをすれば雲雀に不審に思われることは間違いない。
聞き耳を立てつつ、おつまみにそっと手を伸ばす。

 

「だから行かなくていいって言ったのに」
「お酒ばかりだと、胃を悪くしちゃいますよ」
「誰が?」
「……雲雀さんは、大丈夫かもしれませんけどね」

 

くす、と雲雀の笑う声が聴こえて、綱吉は振り返りたくて仕方が無い。
あの雲雀が微笑むところなど、乱戦の中の凶悪なものしか見たことが無いというのに、一体今はどんなふうに笑っているというのか。

 

「雲雀さん、俺注ぎますよ。」

 

おそらく酒の事だろう。
雲雀が何も言わないということは、承諾したのだろうか。
最早つまみに伸ばした手も止まり、完全に意識は背後の雲雀へと集中していた。

とくとく、とお酒が注がれる音が響く。
ふと気が付くと、先程まで騒いでいたはずの守護者の面々も、視線こそ向けないが意識は完全に雲雀とランボへと向けられていた。

 

「俺も早く大人になりたいなぁ。そうすれば、雲雀さんと一緒に飲めるのに」
「大人になっても飲めないよ。君は酒に弱いから」
「そんなことないですよ!俺だって、大人になればきっと…」

 

ランボの言葉に獄寺が口の端を引きつらせ、綱吉にアイコンタクトを取った。
一度雲雀とランボは酒を飲んだことがあるのか、と聞きたいらしいが、もちろんそんなことを綱吉が知っているわけがない。
首を振って見せると、獄寺は眉根を寄せてちらりと視線を雲雀に送った。
気付いているのかいないのか、雲雀は全く獄寺へと視線を送ることはせず、ランボを見ている。

 

「………あの二人って、仲いいのか……?」
「知るか……にしても意外だぜ……」

 

ぼそぼそと山本と獄寺がしている話に、綱吉も頷いて同意した。
全くと言っていいほど接点が無いように思えるのに、こうして二人を並べてみると何故かその間には違和感が無い。
つまりはそれほど、二人の間には距離が無い。

 

「でも珍しいですね。ボンゴレの集まりに雲雀さんが来るなんて。」

 

綱吉たちが一番に感じていた疑問をストレートに訪ねたランボの言葉に、綱吉はごくりと唾を飲む。
雲雀は少し考えた後、グラスを置いて小さく呟いた。

 

「君が来るって言ったからね」
「え」

 

声を上げたのはランボではなく、綱吉だった。
慌てて獄寺が綱吉の口を塞ぐが、刺す様な視線が綱吉の背中に突き刺さり、思わず小さく悲鳴を上げる。
恐る恐る守護者の面々が雲雀へと視線を注ぐと、明らかに不機嫌そうなオーラを纏った雲雀がギラリと目を光らせ、綱吉を睨みつけていた。

 

「さっきからこそこそ、何話してるの」
「え、いや、あの」

 

殺気すらも感じさせるその視線に、綱吉の頬を冷や汗が伝う。
横でランボが慌てているが、どうしたらいいかわからないらしく、おろおろと雲雀と綱吉を交互に見る事しかしない。
こうなったら聞きたい事をストレートに聞いてしまおう、と開き直った綱吉は、意を決して雲雀に向きいあった。

 

「単刀直入に聞きます。雲雀さんとランボって、何時からそんなに仲が良くなったんですか?」

 

しん、と少しの沈黙の後、雲雀がにやりと口の端を吊り上げた。
その笑みは微笑みと言うよりは、悪戯を思いついた子供の笑みと言った方がいいだろう。
何故かランボがその笑顔を見て身体を硬くして、さあっと顔を青くさせている。

 

「まさか、全然気づいてなかったとはね」
「ど、どういう意味ですか?」
「さあ。……いつから仲良くなったんだっけ?ランボ。」

 

突然話を振られたランボはびくりと大げさに身体を揺らした。
綱吉だけじゃなく、他の守護者もランボへと視線を送ったため、緊張したのか小さく震えている。

 

「え、えーと、その、結構前……ですよね……」
「前って……どのくらい?」
「あの……雲雀さんが、イタリアに来て少しした頃から……」

 

雲雀がイタリアに来た頃、となるともう数年は経っていることになる。
言われて見れば、最初の頃は雲雀さんを見て怯えるだけだったランボが、自分から進んで雲雀のところへと書類を届けるようになっていたような気もする。
思い当たる節があり、綱吉はああ、と小さく呟いた。

 

「たしかに……急に雲雀さんの事怖がらなくなったなぁ、って思った事が……」
「雲雀には全然変化は無かったけどなぁ……」

 

山本が呟いた一言に、雲雀がピクリと片眉を上げた。
心外だと言いたそうだが、何か複雑に思うことがあったらしく、僅かに口をへの字に曲げる。

 

「つーか、テメーらどんな関係なんだよ」

 

獄寺の放った一言に、一瞬の沈黙が降りる。
その沈黙を破ったのは、雲雀ではなくランボだった。

 

「いやあのそのっ!ひ、雲雀さん…!」

 

ぼっ、と見る間に顔を赤くさせて、縋るように雲雀の服の袖を掴み、情けなく眉毛をハの字に曲げていた。
そのランボを見る雲雀の目を見てその場にいたほぼ全員が絶句する。

今までに見たことがないほどに、優しいものだったからだ

 

「……なんか俺、わかった…かも」
「あー……うん、まぁ、あんま突っ込むのも…なぁ?」
「ですね……十代目、飲みなおしましょう!あんなの見てたら目が腐りますよ!」
「そうだね…飲み直そうか…うん。」

 

おそらく二人の間にある関係の名前は「恋人」なのだろう、とその場にいた誰もが気付き、そして無かったことにした。
再び酒を飲み盛り上がり始めたその宴会場で、リボーンだけが「今更何を」というような顔をしていたそうだ。

 

 

「よかったな。突っ込んで聞かれなくて」
「り、リボーン…!」
「お前等が一緒に住んでることなんか知ったら、あいつ等卒倒するんじゃねぇか?」
「……君、言ってなかったの?」
「えっ、いや、その、わざわざ言うほどの事でもないかと……」
「本当ははやし立てられるのが嫌だったんだろ」
「リボーン!」
「別に僕は構わないけどね。事実だから」
「え、雲雀さん、それって……」
「オイ此処でイチャつくんじゃねぇぞ。……しかしこんなに分かりやすいのに、ツナも気付いてなかったとはな」
「……分かりやすいのは僕かい?赤ん坊」
「自分で分かってんならもっと上手く隠せ」
「………………。」
「ひ、雲雀さん!こんなところで乱闘はまずいですって…リボーンも煽るな!」

 

 

 

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TAMUさんのリクエスト、「全員で集まっている時に初めて付き合っていたという事実を知る話」でしたー!
人物が多いと上手く文章が書けませんでした……すみませんorz
時間がかかってしまいましたが、楽しんでもらえたら嬉しいです。

リクエスト、ありがとうございました!