「君はいつも人のことばかり心配するんだね」
「え?」

 

それは何気ない一言で、深い意味はなかったんだと、思う。

 

 

 

その甘さが

 

 

 

「そっ、そんなことないですよ、俺、いつも自分の事で一杯一杯で」
「嘘だ」

 

雲雀さんの目が真っ直ぐに俺を捕らえて、俺は言葉を詰まらせて黙ってしまう。
手際よく自分の腕に巻かれていく包帯を見ながら、雲雀さんの指を見て、綺麗だなぁなんてのんきに思っていた。
あのトンファーを持つ手が、今はこんなにも優しく見える。なんて思っていたときに、不意に雲雀さんが言った。

 

「君はいつも人の事ばかり考えているけど」

 

雲雀さんの通る声が聞こえて、顔を上げる。
その視線は包帯に集中していたけれど、その姿すらかっこよくて。

 

(やっぱり、かっこいいよなぁ)

 

こんな風になりたい、という一種の憧れなのかもしれない。
だって顔を見るだけで、こんなにも胸が弾んでいる。

 

「自分の事は考えているのかい?」

 

不意に、雲雀さんの視線が上がり、俺の目とかち合った。

 

(あ、)

 

真っ黒な瞳。
なんていったらいいかわからないけれど、本当に綺麗で。
俺は思わず息を呑んで、その目に見とれてしまっていた。

 

「ねぇ」
「っ、あ、はい、なんですか?」
「………もういいよ。」

 

苛立ちを含んだ目が、俺の目から逸らされた。
もったいない、と思う反面、そらされて傷ついている俺がいる。
廊下でぶつかって、手をついたときにひねって、それを手当てしてもらえているだけ嬉しいことなのに

 

もっと なんて

 

「終ったよ。」
「あ、ありがとうございます。」

 

綺麗に巻かれた包帯を見ながら、もう終っちゃった、と、小さく息を吐いた。
もっと時間をかけて巻いてくれてもよかったのに、なんて

 

「何。文句でもある?」
「えっ、いや、違います!」

 

慌てて手を振って否定するが、雲雀さんは完全に機嫌を損ねてしまったようだった。
がっくりと肩を落としてうなだれる。
雲雀さんはさっさと保健室を出ようと踵を返し、ドアを開けていた。

 

「雲雀さん!」
「!」

 

どうして呼び止めたのか、良く分からなかった。
けれど、何かを言わなきゃいけない気がして

 

「あの、えっと、その」
「………何。早くしてよ」
「俺……っ、俺、雲雀さんの事、好きですから!」

 

雲雀さんは一瞬驚いたように目を見開いて、次の瞬間その目を細めた。
俺は一体今何を言ったのか分からなくなって、一瞬呆けてしまったけれど、何を言ったのかを理解した瞬間、一気に顔が熱くなった。

 

(何言ってんだ、俺!)

 

「あ、あのっ、雲雀さん、今のに深いわけは……」
「………君は変だ。」

 

すぱっと言い放たれて、俺は言葉を飲み込んだ。
さっさと雲雀さんが部屋を出て行くのを見て、俺はまたうなだれる。

 

なんで、言っちゃったんだろう

 

(………でも、雲雀さん)

 

ほんのりと頬を染めていたように見えるのは、何でだろう。