何時だって僕は君を想ってしまうのに
カチャリと玄関のドアが開く音がして、あの子が帰ってきたことを認識する。
窓の外は暗く電灯が煌々と輝いていて、時計に目をやれば午前3時過ぎを指していた。
小さな子供じゃあるまいし、今更帰宅時間を縛るつもりは無いが、それでも気になってしまった。
電気がついていることに驚いたのか、少しの間のあと、バタバタとあわただしく走る音が聞こえ、まもなくリビングのドアが開いた。
「ひ、ばりさん…起きてたんですか…?」
「まあね」
ほんのりと上気した頬は、走ったせいではなさそうだ。
そういえば、今日はあの家庭教師と綱吉と一緒に飲みに行くと言っていたっけ。
水を取りに冷蔵庫へ行き、まだ入り口で呆然と立っているランボにペットボトルを渡して、テーブルに戻った。
「あ、ありがとうございます…」
やっとランボは動き出し、テーブルに僕と向かいになるように座った。
ちびちびと水を飲みながら、ちらちらと僕を見る。
僕はそれに気付かないふりをしながら、手元にある書類を眺め見た。
「あの……えっと、もしかして、俺の為に待っててくれたんですか…?」
声に顔を上げれば、少しの期待に満ちた目がそこにあって
その目に少しの感情の高ぶりを覚えながらも、それを顔には出さずに
「違うよ」
言ったとたん、そうですよね、と、小さな呟きと共に、明らかにショックを受けた顔をして、顔をうつむかせた。
今の違う、という言葉は、ランボの為に待っていたということを否定している。
ただ自分が待ちたかったから待っているだけ、という意味で言ったつもりだけれど、言葉が足りなかったらしい。
自分に向けてのため息をついたつもりだったのに、何故かランボがびくりとした。
「……雲雀さんは、俺の事なんて好きじゃないんでしょ」
突然何を言い出すのかと、一瞬ランボの言った言葉を理解できなかった。
「俺、子供だし、めんどくさいですよね」
ランボの言葉を理解していくたび、ふつふつと怒りがこみ上げてきた。
この僕がここまでしているのに、ランボは全くと言っていいほどわかっていない。
言葉が足りないことはわかっているけれど、それでも僕のしている行動は僕らしくないことぐらいは自分でも理解しているのに。
「君は、」
呟いただけで、ランボがびくりとゆれた。
そんなにおびえさせるようなことをしただろうか。少なくとも、ランボにはしていないはずだ。
「…君は、僕が君の事を嫌っていることを望んでいるのかい?」
「っ……!」
ランボの目にも怒りがともった。
「そんなこと…っ!そんなことあるわけないじゃないですか!」
「じゃあ君が僕を嫌いなんだ」
「違うっ!俺は雲雀さんのことが、好きで…っ!」
「なら、どうしてわからないの?」
書類をおろし、ランボを見る。
混乱した表情で、おそらく不機嫌になっているだろう僕の顔を見て、小さく戸惑いの声を漏らした。
その顔を見て、口の奥で小さく歯軋りをする。
イライラする。
そもそも、僕に他に恋愛経験があれば、こんなことは無かったのかもしれない。
昔からそういったことに興味は無かったし、まさか僕が人を好きになることなんて考えもしなかった。
しかも、自分の興味が持てる強い人間ではなく、群れるのが好きな草食動物。
価値観が違う他人となんて、馴れ合いすらも出来るはずが無いと思っていたのに。
僕には、ランボが何を望んでいるのかわからない。
かといって、僕の価値観を押し付けることはしたくないし、束縛なんてしてランボの行動を制限したいわけでもないから、僕のする全ての行動はランボの為ではなく自分の為にやってきた。
それが間違いなのだとしても、僕にはそれを気付く術はないし、知ったとしてもおそらく変えることは出来ない。
「君が、どうして僕が君を好きじゃないなんて結論に至ったのかわからないけれど」
ねぇ 僕は君を愛しているよ
(だから 僕が君を嫌っているとか 君が僕を嫌っているなんて考えを持たせないで)