その日は珍しく、雲雀さんがボンゴレの屋敷に来ているとボンゴレに聞いた。
はやる心を抑えられなくて雲雀さんの執務室へと向かう。
いつもは施錠されていたその部屋の扉が僅かに開いていて、どくりと心臓が跳ね上がった。

 

(あれ、でも、几帳面な雲雀さんにしては珍しい…)

 

雲雀さんが執務室にいる時は扉に施錠はされていない。
けれど、こうして薄く開いていることもない。
恐る恐る中をのぞいてみると、机には雲雀さんの姿は無かった。

中に入ってみるけれど、雲雀さんからの視線は感じない。
部屋にいないのかもしれない、と思いながら、不意にソファーに目を移した。

 

(……雲雀さん、寝てる…?)

 

ソファーで横向きに寝転んでいる雲雀さんに近づいたけれど、雲雀さんは気付く気配が無い。
木の葉の落ちる音でも目覚める彼が起きないなんて珍しい。
そんなに疲れているのだろうか。

 

(やっぱり、綺麗な顔だ……)

 

長いまつげと切れ長の目。
薄く開いた唇から、かすかな寝息が零れている。
とても綺麗だと思うし、色っぽいとも思う。
大人の色気というか…自分も大人になったら色気は出るのだろうか。
ボンゴレの守護者の皆さんと並んでも違和感がないように、自分なりに大人っぽくなろうとは努力している。
それでもこの人から見てみれば自分は子供のままなんだろう。

自分で勝手に考えたことにショックを受けて、泣きそうになってしまった。
何とか堪えるものの、滲んだ視界は直ぐに戻りそうに無い。
ずっ、と鼻を啜った次の瞬間、雲雀さんの目蓋がゆっくりと震えた。

 

(っまずい……!今ので起き……)

 

隠れようか、逃げようか。
どうするべきか迷った一瞬、雲雀さんの目が俺を捕らえた。
その目はまだぼんやりと眠そうに目蓋が下りていて、その表情がとても色っぽくて、思わず頬に熱が集まってしまう。
頭が真っ白になって、怒られるかもしれないという事すら考えることができなくて

 

「ランボ」

 

名前を呼ばれて、頬に触れられて、そして------------

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ、なんで、今」

 

雲雀さんの部屋から逃げ出して、離れた廊下で息をつく。
荒れた息を整えながら、頭に酸素を送って現状を把握しようと息を吸う。
唇に指を当てて、先程の温もりが嘘でなかったことを確かめて、涙が出そうになった。

 

ずっと、嫌われていると思っていた。

子供っぽい俺なんか眼中に無いのだと、ずっと。

 

「う……ぁあ……あ……ひっ…うぇ…」

 

ぼろぼろと涙が零れて、呼吸が出来ない。
必死に嗚咽を咬み殺そうと歯を食いしばった。
かみころす という行為ですらあの人を思い出すなんて、俺はもう末期だ。

嬉しいのか悲しいのか混乱しているのかわからないまま、声を噛み殺してボロボロと泣いた。

ただ、俺はあの人が好きなんだと思い知らされたことだけはわかっていた。
この後、雲雀さんと会う時、俺はどうすればいいんだろうか。
怒るのか、泣くのか、それとも、責任を取ってほしいと責めるのか

 

 

(今起こった出来事は、きっと俺にとって選択を与えるための出来事だった きっとそうだ)

 

 

 

 

本当に雲雀さんに伝えたいことは怒ることでも泣くことでも、そんなことなんかじゃなくて、ただ一言

 

誰よりも好きなんです それだけ

 

 

 

 

 

愛おしい