「雲雀、さん…?」

 

名前を呼ばれて我に返った。
ぼんやりと、焦点の合わない目が僕を見ていることに気付いて、どうしようもなく居心地が悪かった。

 

 

 

無垢故に、

 

 

 

きっかけはうたた寝から目を覚ました時に、直ぐ目の前に彼がいたことだった。
目が合うと顔を真っ赤にした彼を見て、自然と手が伸びていた。

 

「ランボ」

 

名前を呼ぶと小さく震えて、その頬に手が触れただけで彼の体温が一度上がった気がする。
まだ覚醒していない頭でいたのがいけなかった。
いつもならばそこで触れずに手を引いたはずなのに、その時の僕は本当にどうかして居たんだろう。

気が付くとこの手は彼を引き寄せて、その柔らかい唇にキスをしていた。

我に返った時、彼は何がなんだかわからないといった様子でぼんやりと僕を見ていた。
もしも名前を呼ばれなかったのなら、僕は一体彼に何をしていた?

途端、体中の血液が凍った。

 

「………………。」

 

顔を真っ赤にした彼が、部屋を飛び出して直ぐに溜息を付く。
あれほど彼に触れてはならないと自分を抑えていたというのに全てが無駄になってしまった。

あの壊れてしまいそうな表情を思い出すたびに胸が痛む気がして、吐き気がする。

 

(かわいそうに 僕に振り回されてしまうなんて)

 

彼は今頃何を思っているのだろう。
無理やり唇を奪われたことに激昂しているのだろうか、それとも

 

(なんて自分に都合のいい考えだろうね)

 

ぎしりと椅子を軋ませて、背中を完全に椅子に預ける。
あの柔らかな感触を思い出して、唇に指を当てた。

 

夢かと思った。

この腕の中に彼が居て、暖かくて柔らかくて

ああ 愛しいなどと 到底自分らしくないことを思ってしまった。

 

(僕から離さないと)

 

いつか僕は彼を駄目にしてしまう。

自分を抑えきれないのだと今回のことで身に染みた。
キスだったからよかったものの、もしかしたら彼を殴りつけていたかもしれない。
いつもだれかれ構わず懐いている彼を見ていたのなら、きっと

 

(振り回してしまうくらいなら、始めから関係など持たないほうがいいのに)

 

きっと今ので関係が一つ繋がってしまった。
彼は次に僕をみたときに、どんな反応を見せるだろう。

 

僕は彼を手放すことが出来るのだろうか。