僕を頼ればいいのに。

 

 

 

たった一言

 

 

 

「うっ……ガ・マ・ン…ッ!」

 

どうやら彼は今日も幼馴染の家庭教師に泣かされたらしい。
眉間に皺を寄せて、必死に涙を堪えるその姿は、ほぼ毎日のように見る事ができる。

そしてその度に思うのは、どうして一人で耐えるのか、ということ。

彼の周りには優しさを惜しみなく与えてくれる人間がいるはずだ。
彼の保護者代わりである綱吉なんて、善意の固まりともいえる。
それなのに、彼は決して自分から慰めてほしい、とは言わない。

ただ、一人で堪えるだけだ。

 

(群れないのは、好ましいけど)

 

泣かれるのも好きじゃない。
かといって彼が泣かないようにしなければならない理由もないのだけれど。

 

(あえて言えば、その姿を見せられるのが不愉快だから)

 

そして泣き声が不快だから。
僕にとってはこれだけで行動の理由にはなるのだけれど、彼の泣いている部屋の前から動けずにいた。

どうすれば、彼を泣かせずにすむのだろうか。

もうあの家庭教師に絡むのはやめたら、と言ってしまおうか。
しかしそれは無理だろう。彼の慕う綱吉の傍に行けば、必ず家庭教師もついてくる。
あの毒舌の家庭教師のことだから、結局はランボは泣かされてしまうのだろう。
それなら普通に慰めればいいのではないか、とも思った。

けれど、僕は慰め方を知らない。

 

(何より、慰めまでしなきゃならない理由はないよ)

 

人を殴ることに慣れたこの手は、人を慈しむには不器用すぎる。

 

部屋の前から離れると、綱吉に遭遇した。

向こうの部屋でランボが家庭教師に泣かされた、と伝えると、慌てて廊下を駆けていく綱吉を見送った。

孤高を求めた僕には出来ない慰め方を知って居る綱吉を、一瞬、ほんの少しだけ羨ましいと思った。