ソファーで眠っているランボを見て溜息をつく。
どうにもこの子は危機感が足りなさ過ぎる。
薄っすらと空いている唇を手でなぞるとびくりと身体を揺らして、それでも起きる気配は無かった。
ふと撫でた唇は乾いていて、かさかさしていた。
これでは目を覚ましたとき唇が痛いんじゃないだろうか。
ただなんとなくそう思っての行為だった。
「ん………!?」
なんだか唇に触れたような気がして目を覚ます。
ああ、ソファーで寝てしまったんだとぼんやりと思うと同時に、本当に直ぐ目の前にある雲雀さんの顔に驚いて目を見開いた。
目を閉じた雲雀さんの顔が凄く綺麗で、一瞬それに見とれてしまった。
その一瞬後に、今唇に触れているものが何なのかやっと分かって、一気に頬に熱が集中する。
少しして雲雀さんが俺に気付いて、唇を離す。
「やあ。おはよう。」
「おはようじゃないですよ!何してるんですか!?」
「…………………」
何故か雲雀さんが怪訝そうな顔をして、口元に手を当てていた。
まるで今自分が何をしていたのかわからないというような仕草をして、俺を見る。
とぼけるつもりか、と、ほてった顔のままで詰め寄った。
「今、俺にキスしてたでしょう。」
「……そうだね。」
「何で、寝てるうちにキスなんてしたんですか。」
「……………」
雲雀さんは何がなんだかわからないといったような、珍しく混乱したような様子だった。
ゆっくりと、自分に確かめるかのように言葉を紡ぐ。
「…君が寝ていた。」
「はい、寝てましたね。」
「無防備だと、思って唇をなでて」
「……………」
寝ているうちに何をしてるんだこの人は。
それでキスをしたのだろうかと思ったけれど、まだ続きがあるようで。
「そうしたら、唇が乾いていたから」
目を覚ましたとき痛そうだと思って、と続ける雲雀さんは、やっぱりどうしてなのかわからないような顔をしていて。
「……だから、キスしたんですか?」
素直に頷く雲雀さんを見て、俺のほうがわからなくなった。
いつも雲雀さんは余裕があって、キスをするときも必ずと言って良いほど笑っていて、俺をからかうようにしてくるのに。
今回も、そういう類だと思ったのに、どうやら雲雀さんの中では違うようで。
「……何、これ。」
怪訝そうな顔をしたまま、雲雀さんが眉を寄せる。
ものすごく不機嫌そうに踵を返して、雲雀さんが部屋を出て行ってしまった。
取り残された俺は呆然として雲雀さんの後を見ていて。
(一体雲雀さんはどうしてしまったんだろうとぼんやりと心配していた)
「………なんなの、これ。」
リビングに彼を残してまでキッチンに来て、水を一口飲んだのに、喉につかえたようなもやもやは一向に晴れる気配が無い。
先ほどの自分の行動といい、なんだか凄く不愉快な気分だ。
(こんなの、まるで)
(まるで唯の恋する男みたいじゃないか)
自分が自分でなくなるような感覚に慣れそうな自分が、とても不愉快だった。
(それが嫌じゃないなんて、最悪だ)
緩やかに堕ちて