「わっ、うわっ、わわっ!」
「ちょっと、気の抜けるような声出さないでくれる」
「で、でも…!」
ぱんっと銃声が響くたびに間抜けな声を上げるランボを見て、
雲雀は小さく溜息を付いた。
守るのは
「雲雀さん、危ないですよっ!」
「大丈夫だって言ってるだろ…離して。」
「ダメです!いくら雲雀さんでも、あんな沢山の銃に狙われたら…!」
壁の後ろに隠れているように言いつけて、自分は敵を片付けようと壁から出ようとした時だった。
がしっと服の裾を掴まれて前に進めない。
振り向けば、涙を一杯に貯めた表情で、ランボが必死に僕を引きとめていた。
「出たら直ぐ撃たれます!」
「撃たれる前にかわせばいい。」
「か、かわせませんよ!何人狙ってると思ってるんですか!」
「……三十人前後?」
「だから無理ですってば!!」
しっかりと掴まれた服の裾に目を移し、小さくまた溜息を付く。
此処に隠れるまでも情けない悲鳴をあげ、恐怖が隠しきれずに震えているランボを見て居ると、やはりこういう場所には似合わないとつくづく思う。
いくら人手が足りないとはいえ、ランボは明らかに戦闘に向いていない。
「じゃあ、途中で弾き落せばいい」
「で、出来ませんよそんな……あ、いや、雲雀さんならできるかもしれませんけど、一斉に撃たれたら無理ですって!」
「まともに喰らわなければ死なないよ。ねぇ、いい加減離してくれる。」
「嫌です!俺は、雲雀さんが傷つくのも嫌なんです!」
だから離しません!と、涙の溜まった目で必死に僕をにらみつけた。
無理やり引き剥がすことも出来たが、何となくそれは躊躇われる。
かといってこのまま隠れているわけにも行かない。
そのうち相手が痺れを切らして、突撃してくるのがオチだ。
「…ランボ、このままじゃ二人とも殺られるのはわかるよね」
「わ、わかりますけど…でも、俺、雲雀さんが傷つくのを見てるなんて出来ません」
「僕はこんなところで君と殺されるのを待つなんて僕はごめんだ。だから離して。」
そう言い放つと、一瞬ランボの瞳が揺らぎ、大きな目が一層見開かれた。
言葉が少し足りなかったかもしれない、と思うものの、向こうが何かしら動きを見せているので、言いなおす時間と労力も惜しい。
「……でも……俺は……」
「………わかった。もう離さなくていい。しっかり掴んでて」
「へ?は…わぁっ!?」
相手がついに、なりふり構わず突撃してきたようだった。
このまま隠れていると狙い撃ちにされて終ってしまう。
一か八か、頑固なこの子供を引き連れて、敵の真ん中を突破することにする。
「ひ、ひ、雲雀さんっ!?」
「離れないで」
仰天して服の裾を離してしまったランボの肩を掴んで引き寄せ、自分の後ろに回す。
自分の影にランボを押しやって、少なくとも前からの銃撃は届かないようにした。
残る左手に握った愛用のトンファーで銃弾を弾き、かわしながら敵の中に突っ込んだ。
「わ、あっ、雲雀さん、右…っ!」
「わかってるよ」
敵に囲まれる形になったものの、銃を使えば味方に当たる状況になり、これで銃は使えないはずだ。
前列の敵をなぎ倒しながら、ランボの腕を引き、自分の目の届く範囲に連れ出した。
「ランボ、しゃがんで。」
「え…わっ!?」
ランボが困惑しながらもしゃがんだ瞬間、一気にトンファーをふるって周りの敵をなぎ倒す。
直ぐ頭の上をトンファーが通り、ランボは少し怯えたようで、悲鳴を上げた。
怖がらせてしまったかもしれないけれど、今はそれよりも怪我をさせないようにするほうが大事だ。その時、頭上から銃声が響く。
「雲雀さんっ!」
「!」
ランボがいきなり右腕を掴んで引っ張ったため、体勢を崩してランボの上に倒れこむ。
立っていた時に頭があった位置に銃弾がめり込んで、今のはどこからかの狙撃であったことがわかった。
「だ、大丈夫ですか雲雀さん、怪我は……」
「無いよ。」
言いながら、倒れこんだ僕等の上にここぞとばかりに群がってきた奴等を殴り倒す。
自分が立ち上がるのと同時にランボの腕を掴んで立たせ、今しがた崩した敵の陣形の真ん中を走りぬくように促した。
「えっ、お、俺が前ですかっ!?」
「早く。」
「うっ…わ、わかりましたよっ」
泣きそうな声で虚勢を張ると、ランボは一気に駆け出した。
その後ろを追って、ランボを狙う左右に居る敵を殴り倒す。
その度にランボが悲鳴を上げたけれど、それに構っている暇はなかった。
「…………まいたみたいだね」
「………………」
呆然とした表情で息を整えるランボを見ながら、辿り着いたボンゴレの屋敷の前で溜息を付く。
今回与えられた任務は敵の武器倉庫を破壊することで、余り敵もいない計算になっていた。
だからこそ、雷が扱えるランボをつれて、火薬を爆破させようとしたのだが。
計算外だったのは、敵が予想以上に多くの見張りをつけていたこと。
念のためについてきてよかったと、改めて溜息を付く。
「雲雀さん」
「何?」
「右腕、怪我してます。」
「ああ…」
一撃喰らってしまったらしく、ナイフか何かで切られたようで服に赤い染みが出来ていた。
血はすでに止まっているので問題はないが、ランボはハンカチを取り出して傷口にまきつける。
「雲雀さん、俺の事かばっていつも怪我するんですよね…」
「そう?」
「そうですよ。俺と一緒の仕事の時は、いつも……」
泣きそうな表情で傷の手当をしながら呟くランボを見て、目を細める。
そういえば、一番最初に彼を守って戦ったのは何時の事だったか。
「…俺、雲雀さんが怪我するの見たくないんです。…雲雀さんは、俺と死ぬより戦って死んだほうがいいって思ってるかもしれないけど」
「…また何か勘違いしてない?僕は死ぬ気なんかさらさらないよ。」
「だって、さっき逃げるときに…」
「僕は君が怪我をしたり死ぬところなんて見たくないし、このままじゃそうなるって分かってるのにただ見てるなんてごめんだって言ったんだ」
やっぱり言葉が足りなかったか、と小さく溜息混じりに言葉を付け足す。
すると驚いたように目を見開いた後、一気に顔が赤く染まった。
「ねぇランボ、随分とマシになったと思わないかい?」
「な、何がですか……?」
「君を守る戦い方。最初の頃はどうやったらいいかわからなかったんだけどね」
「!!」
より一層ランボの顔が赤くなったのを見て、小さく笑みを浮かべる。
最初の頃より、からかい方も上手くなったのかもしれない。
「綱吉に報告に行くよ。家庭教師からも約束を守ってもらわないとね」
「え…約束なんてしてたんですか?」
「うん。君の任務にお守りについたら、リキュールを一本貰う約束だったんだ。」
「……それって、俺の為じゃなくてお酒の為に着いてきたってことですか。」
「さあ。少なくとも僕は、約束が無くても着いていくつもりだったけどね」
「………雲雀さん、俺の事からかって楽しんでるでしょ」
「うん。反応が可愛いよ。」
「〜〜〜〜っ!!」
(こんな言葉が言えるようになるほどに、僕等は時間を共にしてきたみたいだ)
綱吉の部屋への道のりを歩みながら、顔を真っ赤にして怒るランボをどうやって宥めようか、と考える。
それすらも楽しく思いながら、ランボを見て小さく笑った。