コンコン、と二度扉をノックする。

 

「いいよ。入って。」

 

低くて通った声が響いて、俺はゆっくりと扉を開けた。

 

 

 

指先に触れるだけで

 

 

 

「………あの、雲雀さん」

「何?」

「……それ、全部書類ですか?」

「そうだよ」

 

雲雀さんの机に積まれた書類を見て、思わず一瞬呆けてしまった。

雲雀さんが見えなくなるほど詰まれた大量の書類。

けれど仕事の速い雲雀さんがこんなに仕事を残すとは考えられなくて、思い当たったことは一つ。

 

「もしかして、ボンゴレの仕事ですか?」

「そうだよ。」

 

あっさりと肯定されて、雲雀さんをまじまじと見る。

疲れを感じさせず、いつもと変わらない表情をしているけれど、声はどこか疲れた調子が隠されていた。

気付く人は少ないだろうけど、と思いながら、雲雀さんに近づく。

イタリア語で書類に書き込まれる文章を見て、やっぱり雲雀さんは凄いと思う。

 

決して慣れているわけではないイタリア語をこんなに使いこなして、しかもボンゴレに任されるほどの重要書類を軽々と終わらせてしまうのだから。

 

「雲雀さん、コーヒー入れますか?」

「……コーヒーより日本茶が飲みたい。」

「分かりました。今入れてきますね」

 

随分と疲れている様子の雲雀さんを見かねて、急いで日本茶を淹れる。

まだ日本茶独特の苦味が苦手だけれど、雲雀さんが好きなら自分も飲みたいと思い、自分の分もちゃっかり淹れて、雲雀さんのところへ持っていった。

すると、

 

(…あれ?)

 

書類が随分と減った気がする。

少なくとも、雲雀さんの顔が確認できるほど。

 

「…書類、減りましたね」

 

たった十五分ほどの間なのに、と思いながら、雲雀さんの机の空いているスペースに湯飲みを置く。

すると、雲雀さんがペンを置いた。

 

「読むだけのものがいくつかあったからね。」

 

その辺は適当にやっておいた。と言いながら、雲雀さんが湯飲みを取ってお茶を口に含む。

自分もそれを見ながらお茶を飲もうと口に含んだ。

けれど

 

「熱っ…!」

「!」

 

熱くて直ぐに口を離す。

何度か似た体験をしているというのに、学習しない自分に嫌になりながら湯飲みを置いて舌を出した。

やけどしてしまったらしく、ひりひりしている。

 

「馬鹿だね……何度繰り返せば気が済むの?」

「す、すみません……」

 

はぁ、と息を吐いて、人差し指で舌をつつく。

ぴりぴりと痛みが走り、それに顔を歪めた。

 

すっと雲雀さんの手が俺の頬に触れて、驚いて雲雀さんを見る。

その口元は楽しそうに笑っていて、俺は嫌な予感を感じ取った。

 

「舌、やけどした?」

「は、はい、多分……」

「見せて」

 

雲雀さんの手が顎に移り、俺の顔を引き寄せた。

息が掛かるほど近い位置に雲雀さんの顔があって、自然と脈拍が上がる。

 

「…赤くなってる」

 

くす、と雲雀さんが笑う吐息すらも分かるほど近くて、自分の鼓動が大きくて。

頭が混乱し始めた次の瞬間、雲雀さんの唇が重なった。

 

「っ……ん」

 

ぴりぴりする舌。

けれど、それすらも心地よくて

溶けそうな口付けに、震える膝で必死に身体を支えた。

 

「ごちそうさま、ランボ」

「っ…!!」

 

ああ、この人はいつもこうやって俺をからかって愉しんで

いつも俺は、振り回されてばかりだ

 

(その台詞一つ一つに、俺がどれだけ反応しているかも知らないで!)

 

 

 

何度もそう思うのに、結局俺は振り回されてしまうわけで。

 

 

 

 

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ユウさんのリクエスト、雲雀×ランボ(+10)の別バージョンです。
もし雲雀さんも十年後だった場合はこちらをお楽しみくださいね!←

リクエストどうもありがとうございました(^^)