雲雀さんは、酷い
酷いけど、でも、それ以上に優しい
貴方を待つ
別れをほのめかすような冗談を言うなんて、今回と言う今回は本気で頭にきた!
といきり立っていたのは二週間前の事で、今はなんで逃げてしまったんだろうと酷く後悔している。
でも、本当に酷いと思ったし、あの時はもう会うもんか、なんて思ってたんだ。
だけど数日後、雲雀さんはちゃんと縁談を断ったって情報が伝わってきて
会いに行こうかとも思ったけど、そのときはそれでもやっぱり怒ってて今は、酷く会いたくて仕方ない
あの綺麗な手で頭を撫でて、柔らかい唇でキスをして欲しい
好きだよ、って、優しく囁いて、強く俺を抱きしめて欲しい
雲雀さんは俺がいなくても平気かもしれないけど、俺は平気じゃないよ
二週間も、仕事じゃないのに離れてるなんてよく我慢できたと思う。
好き だよ
でも、会いにいけない。
此処まで長い間会わないでいると、きっかけがつかめなくなってしまう。
雲雀さんが謝ってくれたら、俺が抱きつくチャンスも出来るんだけど、雲雀さんがそんなことするわけ無いし。
となると俺が謝らなきゃいけないんだけど、俺から謝るなんてなんだか話が違う。
「……というわけなんだけど、どうしたらいいと思う?リボーン」
「此処で俺に相談に来る時点で駄目だと思うぞ」
幼馴染にさらりと酷いことを言われてさらに落ち込む。
本当はボンゴレに相談しようとしたんだけど、生憎散歩に出かけたところらしくて。
部屋にいたリボーンとコーヒーを飲みながら(俺はぶどうジュースだけど)、今回の話を聞いてもらったところだった。
「だったら謝って欲しいって雲雀に直接言えばいいだろ」
「無理だよ!雲雀さん、絶対怒る……」
そうなったら、多分今度は本気で別れるといわれてしまう。
雲雀さんと別れるなんて、俺は絶対に耐えられない。
「いっそそうしたほうがいいんじゃねぇか?お前、雲雀にいつも振り回されてるしな」
「そんなこと……」
「大体一ヶ月置きに綱吉に泣きついてるだろ」
雲雀さんにいじめられたときの避難所がボンゴレだ。
そのボンゴレといつも一緒にいるリボーンに言われては、何もいえなくなってしまう。
でも、それでも俺は
「泣かされても、いじめられても俺は雲雀さんが好きなんだ」
だから離れたくない。
振り回されたっていい。
怒ってしまうときもあるかもしれないし、いつか疲れてしまうかもしれない。
それでも、好き
「それ、直接雲雀に言えばいいだろ」
「でも、きっかけが……」
「とりあえず、会ってやれ。お前が会おうとしなけりゃ、あっちも謝るきっかけが無いんだしな」
「謝ってくれるなんて無いと思うけど……そうだよね」
俺の事、許してくれるかな。
雲雀さん、まだ俺を好きでいてくれるかな
雲雀さん
「…俺、行く。ありがと、リボーン」
グラスをテーブルに置いて立ち上がり、部屋を飛び出した。
全速力で、雲雀さんの執務室に向かう。
早く、早く
一分一秒でも早く貴方に会いたい
一分一秒でも長く、貴方の傍にいたい
「っ……は、は……」
執務室の扉を思いっきり開けるけれど、そこに雲雀さんの姿はなかった。
そういえば、今日って雲雀さんは休みを取ってた日じゃないか!
慌てすぎだ、と自分を叱咤しながら走り出す。
休みの日は、雲雀さんはいつも外出しない。
だから、きっと家にいるはずだ。どくどくと心臓が高鳴る。
会いたい、会いたい、会いたい
雲雀さんに、会いたい
「っわぷ!」
「!」
踵を返して走り出し、廊下の角を曲がろうとした瞬間、誰かに思いっきりぶつかって後ろに弾き飛ばされた。
転ぶ、と思って痛みを覚悟したけれど、想像していた痛みは全く感じなくて変わりに腰に回された、暖かい手
「あ、す、すいませ……」
「………君は、どうしていつも、僕を動揺させるの」
「え」
小さく呟かれた低くて通る声
この声は、俺が聞きたくて仕方なかった
ずっと、聞きたかった、あの人の
「雲雀、さん」
名前を呼ぶと、雲雀さんの腕に少し力が篭った気がした。
少し乱暴に立たされて、雲雀さんの手は俺から離れる。
その温もりが恋しくて、とっさに手を伸ばして雲雀さんの手を掴んでしまった。
「……何」
「あ、の」
何を言えば良い?
雲雀さんの目は冷たくて、前みたいに優しい色をともしてない。
もう俺の事を嫌ってしまったかもしれないのに、何を言えば
動揺と同時に少し落ち着いた俺は、驚いて目を見開く雲雀さんの手が少し震えてるのを、感じたから
「雲雀さん」
もう一度名前を呼ぶと、雲雀さんの目が少し揺らいだ。
ああ、俺はこの目を知ってる。
何時だか俺が先走って雲雀さんを責めたときに見せた
少しの怒りと、それを上回る別な感情
俺はもう その感情を知ってる
「ひばりさん」
名前を呼ぶことしか出来なくて、それ以外の言葉が浮かんでこない
雲雀さんの手を離して、ゆっくり雲雀さんに抱きついて、背中に手を回す
「雲雀さん、雲雀さん、雲雀さん」
好き、です。
大好きです。
俺を、抱きしめて
「……君は、いつもそうだ」
雲雀さんの手が俺の背中に回る。
一拍置いて、雲雀さんは強く力を込めて俺を引き寄せた。
雲雀さんと俺の間に隙間がなくなり、いっそ苦しいほど抱きしめられて
「どうしていつも、僕から機会を奪うの」
雲雀さんの胸に顔を埋めたけど息が苦しくて顔を上げる。
タイミングを見計らったかのように雲雀さんの唇が俺のそれに重なった。
そして、唇が離れて、俺の耳元で雲雀さんが囁く
"ごめんね"
まさか貴方が謝るなんてそんなこと考えたこともなくて
その瞬間俺はみっともなく大声を上げて泣いてしまった