君がいつも傷ついていることは知っていた
君を追う
ランボは泣き顔が可愛い。
本気でそう思っているから、しょうがない。
泣き顔見たさにいじめてしまうことも何度かあって、彼はきっとそのたびに傷ついているのだろうと思った。その仕返しと言わんばかりに、エイプリルフールに「好きな子が出来た」と言われたときは、らしくもなく余裕をなくしてしまったけれど。
きっと彼はそういう思いをいつもしているのだろうと、僕の言葉で傷つく顔を見るたびに思う。それでも彼はいつも僕の隣に戻ってくるからそれで良いと思っていた。
思ってた のに
「綱吉」
「はいっ!?え、あれ?なんで雲雀さん此処に……!?」
「ランボは何処」
ボンゴレという大きなマフィアのボスなのに、のんきに一人で公園のベンチに座っている綱吉を見つけて背後から詰め寄った。
別に気配を消したわけでもなく、寧ろ走り寄ったのに全く気付いていない様子の綱吉に溜息を漏らす。
けれど今はそれよりも重要なことがあって、僕はそれを先に綱吉に尋ねた。とたん綱吉は驚いたような顔をして、僕の顔を呆然と見るから、イラっと来た。
知ってるなら知ってる、知らないなら知らないとさっさと言えば良いのに、とぎりぎりと奥歯を強く噛む。
怒りが相手に伝わったのか、直ぐに我に返って慌てたように綱吉は口を開いた。
「俺、てっきり雲雀さんと一緒にいるんだって思ってたんですけど」
ここ数日、ずっと会っていない。
と、綱吉は続けた。
だけどそれは僕も同じで、だからこそらしくもないことを承知でこうして探しているのに。流石に今回はいじめすぎたと、少し後悔もしているというのに。
「…え………今、何て」
「ボンゴレの同盟ファミリーの一つから、縁談を持ちかけられたんだよ。結構な力を持っているから、断るのが難しくてね」
クスっと笑って言うと、ランボの顔が見る見る青くなった。
いっそ哀れなほど動揺しているのが手に取るようにわかって、こみ上げる笑いを押し殺す。
「だから」
ね?と、相手に続きはわかるだろうといわんばかりに微笑みかけると、ランボは大粒の涙をぼろりとこぼした。
僕は何も言っていないのだけれど、ランボはその言葉の続きを"別れる"というものになると予想したらしい。
そんなことはありえないのに、本当に可愛らしい。
「嫌、です。」
「何が?」
「俺、雲雀さんと、離れたくない」
「傍にいられるよ。ただ少し時間が減るだけで」
「そうじゃなくて、俺、ずっと雲雀さんと」
雲雀さんと一番長く傍にいたいのに、と震える声で呟いて、僕の腕に縋りつくランボ。
可愛らしくひくっと時々しゃくりあげて、ぎゅうっと強く服を掴む。
ああ、僕は彼にとても愛されていると、とても実感した。
「好きです、雲雀さん。大好きです」
だからどうか、傍にいて
「…僕も好きだよ、ランボ」
ちゅ、と頬にキスを降らせると、ランボの顔が跳ね上がった。
驚いたように目をぱちっと見開いて僕を見ている。
別れるんじゃないのか、と言わんばかりに目が訴えていて、それに僕はまた笑いがこみ上げてきて、ソレを押し殺すのに少し苦労した。
「さっきの続きなんだけど」
「続き?」
「うん。だから、縁談を断ると仕事が増えると思うんだ。一緒にいる時間は少し減ってしまうけれど、いいよね?ランボ。」
にっこりと笑ってそういうと、ランボは顔を見る見る赤くして、ギッと僕をにらみつけた。
その顔も可愛らしいものだったのだけれど。
「酷い、雲雀さん。俺の事だまして」
「だましてないよ。嘘もついてない。」
「言葉にしてなくても、俺の事騙したことには変わりないです。ほんとに、酷い!」
エイプリルフールに僕を騙したことはすっかり頭から消えているらしく、ランボはそのまま部屋を走って出て行ってしまった。
ああ、また傷つけてしまった。
そしてそれ以来二週間、ランボは全く姿を見せない。
縁談はきちんと断ったし、その旨はボンゴレにも伝わっているはずだ。
今まではどんなにランボが激怒していようと、一週間もすれば向こうが耐え切れなくなって会いに来ていたのに。今回は僕のほうが耐えきれなくなってしまって、僕が彼を探すハメになっている。
恋というものは惚れたほうの負けだというけれど、全くその通りだと思い知る。
彼は僕の所在や現在地を総て知っているのに、僕は彼の行動範囲を全く知らない。
どこで今何をしているのか、わからない。
(……次から、一ヶ月分の予定を僕に報告させるようにしないと)
そう心の中で思いながら、一回りした公園を足早に出る。
あと、ランボが行きそうなところといえば以前一緒に食べに行ったジェラートの美味しい店か、映画館くらいだ。
しかし映画館には彼はいなくて、店には一人では行かないと言っていた。僕と離れている間に誰かといるのならば、見たくはないし
(やっぱり向こうから来るのを待つしかないか)
来てくれなければ、本当に終わる
謝ることも出来ずに
「……………」
凄く自分を咬み殺したくなった。気持ち悪い。
いつからこんなに他人の行動に振り回されるようになったのか、と、小さく溜息を付きながら踵を返して自宅に戻る。
もういい。これ以上慌てたってどうにもならないのだから。
こうして振り回されるなんて、彼以外ではごめんだと思いながら、足早に自宅へと戻った。
彼がもしかしたらいるかもしれない、なんて、小さな小さな期待を抱いて
(一人の部屋は少し広すぎるように感じるよ
ねぇランボ
僕は君をこんなにも愛してしまっているんだ)
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時間があったらランボ.Verも書きます