「…え……ええ!?」
久しぶりに十年後に来たと思ったら、どうして柄の悪い男の人たちに囲まれてるの!?
Method
「あ、あの、貴方達は……?」
聞かなくても分かっているけれど、逃げる隙をうかがう為に聞いてみた。
多分この男の人達にいじめられた自分が、泣きながらバズーカーを撃ったんだろう。
だけど、痛いのが嫌いなのは十年後だって変わらないのに!
「あのガキ何処行った…?」
「まぁいいじゃん、でかくなって殴りやすくなったしー」
殴らないでください、と心の中で呟いて、そうっと一歩だけ後ずさる。
直ぐに壁にぶつかって、逃げ場がないことに気が付いた。
十年前のような小さい体なら、男達の足の間を潜り抜けることも出来ただろうに、この姿じゃあ逃げることはままならない。
「いいサンドバックじゃん!」
「ひいいっ!!」
体格のよさそうな男が振りかぶり、殴られる!と思ってぎゅっと目をつぶり、顔を手で守った瞬間だった。
「君達、何してるの」
凛として響く声。
決していきり立つ訳でもなく、かといって冷めているわけでもなく、当たり前のような声色に、俺は目を開けて顔を上げた。
そこには黒い学ランを来た、十年前の大好きな人が居て
「雲雀さん!」
「ひ、雲雀…!?」
その人の名前を呼べば、不思議そうに雲雀さんは顔をしかめて俺を見た。
そういえば、十年後の俺と十年前の雲雀さんは、まだちゃんとした面識を持っていない気がする。
「僕の目の前で群れるなんて、そんなに咬み殺されたいんだ…?」
「ひっ……!」
雲雀さんがちらりと俺を囲む数人に目を移し、愉しそうに口元をゆがめた。
目はぎらぎらと光っていて、まるで何かに飢えているようで、男達は小さく悲鳴をあげ、数歩後ずさった。
「こっ……このやろう!!」
恐怖に負けた男達が、一気に雲雀さんに襲い掛かる。
けれど雲雀さんはあせった様子もなく、唯数歩前に出ただけだった。次の瞬間、一人の男が吹き飛ばされる。
雲雀さんはいつの間にかトンファーを取り出していて、そのトンファーには返り血が少しついていた。
その血を払うように一度振ると、やっと事態を飲み込んだ残りの男達が、あせって雲雀さんに手を出した。やっぱり、雲雀さんは綺麗でカッコイイ。
次々と男達をなぎ倒す姿を見ながら、俺はそんな事をぼんやりと思っていた。
「く、くそっ!」
「!?えっ!?」
雲雀さんに見とれていて、一撃喰らった男が立ち上がり、俺に迫ったことには全く気付かなかった。
気付いたときには、男の拳が既に俺に向かっていて。ぎゅっと目を閉じ、次に来る痛みを覚悟した。
けれど痛みは感じなくて、でも確かに殴られたような音は聞こえていて。
恐る恐る目を開けると、目の前には黒い学ランがあって。
「…君、僕に傷を負わせた代償は高くつくよ」
「ひっ……ひいいっ!!」
雲雀さんは切れた唇から流れた血を指先でぬぐうと、一気に男との距離を詰め、みぞおちに一撃叩き込んだ。
そのまま崩れる男の頭をめがけてトンファーを振るい、ガツッと嫌な音と共に、男は完全に道路に沈んだ。
「ひ、雲雀さんっ!!」
俺の事を守ってくれた。
でもそのせいで、雲雀さんが怪我をしてしまった。
慌てて雲雀さんの肩を掴み、無理やりこっちに体を向けた。
雲雀さんは驚いたように俺を見ていたけれど、そんな事に構う余裕は無くて。
「顔、殴られたんですか?ごめんなさい、俺がぼうっとしてたから…!」
雲雀さんの綺麗な顔には、ほんの少しの血と、小さな打撲があった。
唇は少し切れていたけれど、血はもう止まっているらしい。
「ええと、頬の血は…返り血みたいですね、よかった」
ほっと息をついて、指で雲雀さんの頬に付いた返り血をぬぐう。
打撲の上だったので痛んだのか、雲雀さんは少し顔をしかめた。
「ああっ、ご、ごめんなさい!ええと、絆創膏は……」
「君、変だね」
「えぇっ!?」
「いいよ、別に。そのうち治るし」
「あ、でも」
「いいから」
念を押すように言うと、雲雀さんは俺の手を払ってさっさと来た道を戻って行ってしまった。
変だね、と雲雀さんが言ったとき、なんとなく笑っているように見えたのはどうしてだろう。
(ああ、十年後の雲雀さんに聞きたいことが出来てしまった)