*小春日和*

 

それはある晴れた春の日のこと…

 

「…よーし!今日の仕事は終了だ!!!」

 

そう言って勢いよくブランコから飛び降りる青ジャージの男、聖徳太子
…だったが

ズボっ!!!

どういう訳か頭から地面に落ち、見事に突き刺さる

 

「おあまっ!!!刺さった!刺さった!!妹子っ、手伝えっ!!」

 

足をバタつかせ必死に土の中から叫ぶ
しかしそれに応えるものは無く、虚しく響く声

 

「くそっ、抜けなっ…、こら、芋!木の後ろにでもいるんだろ!?わたしの素晴らしいスーパービューティフルバタ足を見ていたいのも分かるがもうそろそろ助けろ!!いろんな意味で永久保存版になるぞ!」

 

更に呼びかけるがやはり応える気配はない
そうしているうちに自力で脱出した太子
口には大量の土が含まれている

 

「ぜはぁ…、死ぬかと思った…。おい、妹子!!いい加減出てこい!」

 

そう言ってブランコ周辺にある木の影をくまなく探す
しかしどこを探しても妹子の姿はない

 

「おかしいな…、あ…」

 

ここで太子はあることを思い出した

 

「…そういえばあいつ2、3日前位から朝廷の仕事忙しくて来れないんだったな…」

 

今更である
しかしそれでも妹子は合間を縫ってたまに太子に会いに来ていた

 

「むー…、妹子め…私より仕事の方が大事だというのか…」

 

そう言ってゆっくりと庭を見渡す

 

「それにこんなに庭が綺麗なのに引きこもりなんて勿体無い!!!」

 

確かにそこは桜の花びらがそよ風に舞い、草花が咲き乱れ、蝶や鳥が飛び交う、そして全てを温かい光で優しく包みこむ太陽を感じる…まるで夢のような場所となっていた

 

「…よし、午後から妹子と花見をするでおまっ!!」

 

そして静かに呟く

 

「私をほったらかしにした罰だ、何と言おうと付き合って貰うからな…!」

 

太子の口元が緩んだ

 

 

* * *

 

 

「妹子とツナは〜仲良しtonight♪」

 

こんな歌を口ずさみながら妹子を探す太子
しかし、普段妹子が仕事をしている所をいくら探してもそこに彼の姿はなかった

 

「どこ行ったんだお芋のやつ…、いつもならいるのになー。あ、もしかして前に掘った対妹子用落とし穴にでも落ちたのか?」

 

そんなことを言っていると突如後ろから声がした

 

「小野くんなら今日は体調崩して部屋で休んでいるよ」
「!!?」

 

太子の後ろにはいつの間にか蘇我馬子が立っていた
そして先ほどまでの陽気さは消え、真剣な眼差しで問う

 

「馬子さん!それはどういうことですか…!?」

 

馬子は太子のいつになく真面目な表情に驚きながら答える

 

「…夜中まで仕事してたからな。無理するなと何度も言ったのだか何故か早く片付けたいと言ってきかなかったのだ」「そうですか…。ありがとうございました、馬子さん」

 

そう言うと妹子の部屋がある方向へ走り出す
そんな太子の姿を見ていた馬子はふっと笑みをこぼした

 

 

* * *

 

 

「妹子っっっ!!!」

 

突然開いた障子、そして息を切らしながらも自分の名を必死に呼ぶ太子を見て布団の中でただただ唖然とする妹子

 

「…太子…?どうしたんですか?」
「どうしたはこっちの台詞だ!」

 

そう言うと少しずつ妹子に近づく太子だが、妹子はそれを見てすぐさまこう言った

 

「来ないでください、太子!!風邪が移ります!!」

 

足を止める気配はない
しかしそれを妹子はなんとなく分かっていた
でもそうなったことがどこか嬉しくて

 

「…お前のなら移っても構わない、だからここに居させろ」

 

そう言って妹子の横に座る
妹子は体中が熱くなるのを感じた

(…ストレートすぎるっての…)

 

「ほ、本当に知りませんからね…」
「………」
「………」
「………」
「………」

 

沈黙が続く

 

「………」
「………なぁ、妹子」

 

この沈黙を破ったのは太子だった

 

「…なんですか?」
「お前、なんで無理して早く仕事終わらせようとしたんだ…?それと、そのジャージ…」

 

妹子の着ていた赤いノースリーブのジャージを指差しながら言う

 

「…た、太子のことだから、もうそろそろ花見でもやるぞって言うと思ったからですよ。なのに仕事入っちゃったから…。あとこのジャージは…」

 

妹子はさらに顔を赤らめて続ける

 

「…このジャージは、太子が着ろって言ったからと…」

「…これを着てると太子がそばにいる気がするから…です」

 

二人の顔が一気に赤く染まる

 

「…ほんっと馬鹿だな、妹子」

 

それを聞いてガバッと起き上がる

 

「ばっ、馬鹿に馬鹿なんて言われたくな…」

 

 ―ふぁさっ―

 

太子が着ていた青い長袖のジャージを妹子にかける
先ほどまで着ていたこともあってとても温かい

 

「着ていろ、治らないぞ、風邪」
「でも太子が…」
「最初に言っただろう?私は大丈夫だし、お前のなら」

 

その続きを聞くのが恥ずかしくて思わず茶化してしまう

 

「ば、馬鹿は風邪ひかないって言いますしね!」
「…なっ!私がせっかく」
「でも…、ありがとうございます」

 

そう言うと妹子は照れながらも嬉しそうに笑った

 

「あ…あぁ」

 

太子の心臓が高鳴る

(…反則だって、今のは)

 

「…あ」

 

突然妹子は羽織っていたジャージのある一点に目を移した
そのことに気づいて太子もそこに視線を向ける
そこには恐らく太子が外にいた時に付いたのであろう桜の花びらがついていた

 

「なぁ…妹子…」
「あの…太子…」

 

二人の目が合う
お互いなかなか反らすことができない
そしてそのまま二人で言う

 

「今度花見するぞ」
「今度花見しましょう?」

 

春の温もりが笑う二人を包み込んだ

 

 

 

-----------------------------------------------------
この作品は友人のAもといあかつきに書いていただきましたw
ステキな二人を有難う!!