最近気が付いた事だった。

ダンテは自分が眠りについたことを確認してから眠っている。

何故なのかは、考えるまでも無い。

 

 

 

喪失の恐怖

 

 

 

「………バージル、寝たか?」

 

返事をしないでいると、ダンテが深く息を吐いて、再びベッドに横になった。
片目を開けるとこちらに背を向けて眠っているダンテが見えて、気付かれない程度の溜息を付く。

アレはどうやら、自分が居なくなるのではないかと怯えているようだった。
随分と信用がないものだと自嘲気味に思うが、考えれば無理も無い。

 

「ダンテ」

 

声をかけると、びくっと体が揺れて、ゆっくりとダンテがこっちを向いた。
その目を見据えて呟くように声を出す。

 

「俺は此処にいるだろうが」
「………そりゃ、見りゃ分かるって」
「どうやらお前は見ても分からないようだからな。」

 

ふん、と鼻を鳴らすとダンテの顔が不愉快そうに歪んだ。
あっさりと挑発に乗ってしまうところはこいつの悪い癖だ。

 

「アンタはいっつも、俺に何も言わずにいなくなるからな」
「最近はちゃんと言っているだろう。買い物に行くだけでもな。」
「俺が五月蝿く言ったからだろ。それに、本当にいなくなるつもりなら何も言わないだろ、アンタは。」

 

よくわかってるじゃないか、と付け足すと、ダンテの顔がまた歪んだ。
自分と同じ顔に近づいてきていることに気付いているのか居ないのか。
おそらく後者だろうとは思うが、やはり双子なのだと思わざるを得ない。

 

「第一お前もそうだ。どこぞの馬鹿共と飲みに行った時は何も言わないだろうが」
「それでも俺はちゃんと帰ってくるだろ。」

 

ダンテが完全にこっちに向き合う。
ベッドは離れているものの、勢いに任せてこっちのベッドに入ってきそうだ。
もしも入ってきたら刀で刺せるように準備をしておきながら、返答する。

 

「お前は、俺がどうして此処に居るのかわかっていないようだな」

 

ダンテは口を閉じて、睨み始めた。
どうやら理由を言ってみろといいたいらしい。
何も言わずとも感情が読み取れるのもまた、双子だからなのか一緒に居た時間が長いからなのか。

 

「少しは信じろ。」

 

それだけを告げて、ダンテに背を向ける。
この話題でいちいち長話をしているほど、眠気に余裕があるわけではない。
そもそも理由は言うつもりもないのだから、さっさと切り上げたほうが無難だろう。

しかし少しの間の後、ダンテがベッドから抜け出す感覚があった。
まさか、と思っていると、ダンテがどかっとこっちのベッドに腰を下ろす。

 

「……なんだ。」
「別に。」

 

そのままシーツの上から横になったダンテの方に振り向き、睨みつける。
するとダンテの腕が肩を掴み、引き寄せられた。

 

「なんだ、怖い夢でも見たのか?ダンテ」
「昔みたいな言い方すんなよ、バージル」

 

昔、まだ子供だった頃、悪夢に怯えたダンテを思い出してからかうように言えば、直ぐに察したらしく拗ねたような声が返ってくる。
怒っているわけではないところを見ると、これは甘えていると取っていいものだろうか。

 

(そんなにも不安に思っている、ということか)

 

何かすることも出来なくて、結局朝までダンテはしがみついたままだった。