久しぶりに夢を見た。

 

 

(ダンテ)

 

 

子供の頃の、夢を

 

 

 

dReAmEr

 

 

 

「アンタも昔は素直だったよな」

「突然なんだ」

 

食事を終えて食器を片付ける兄の背中に向けてしゃべると、顔は向けずに声だけを返してきた。

夢を見たのはついさっき、バージルに起こされるまで昼寝をしていた時。

だから正直、まだ現実と夢がぼやけている感じがする。

 

「俺の事、お前とか貴様とか言わなかったし」

「名前で呼んで欲しいのか?」

 

女々しいな、と付け足されて、俺はカチンと来て眉を吊り上げる。

いちいち挑発する言葉を付け足しやがって。

 

「喧嘩売ってんなら買うぜ?」

「誰がそんな面倒なこと」

 

嘲笑するように笑いを漏らされて、行き場の無い苛立ちが募る。

玩んでいたフォークにパスタを絡めて、口に押し込んだ。

 

「早く食え。片付けられん」

「わかってるっつーの」

 

もう一口押し込んで、向かいに座る兄を眺め見る。

同じ顔なのに、表情一つでこんなにも違うものなのかと感心してしまう。

指も、腕も、爪も、全部同じもののはずなのに、何故

 

(性格が違うと、全部違って見えるもんなのか?)

 

租借しながらフォークをガツンと皿に突き立てると、向かいにある端正な顔が不機嫌そうに歪んだ。

 

「行儀が悪い。」

「はいはい、悪かったな」

 

フォークを持ち変え、パスタを絡める。

何時の間に料理が出来るようになったのやら、店のそれとなんら変わりない味のパスタを見て感心する。

昔は料理なんてしたこと無かったはずなのに

 

(…でも器用だったからな)

 

やろうと思えば出来たのかもしれない。

俺とは違って、何でもこなせるから

 

「ダンテ」

 

突然名前を呼ばれて、はっと我に返る。

バージルを見れば、怪訝そうに顔を覗き込んでいた。

 

「また夢の世界に入るつもりか?」

「………ちょっと寝ぼけてるだけだろ」

 

そう言って、残っていたパスタを口に掻きこんだ。

 

(名前で呼んだな)

 

きっと名前を呼ぶ前に、何度か呼びかけていたんだろう。

けれど俺はそれに気が付かなかった。

名前で呼ばれて初めて気が付くなんて

 

「……お前は、俺がお前を名前で呼ばないと言うが」

 

バージルが本に目を落したまま言うのを見る。

アイツから事務的でない会話をするなんて珍しい、なんて思いながら聞いていた。

 

「お前も俺を名前で呼ばない」

 

それだけ言って、バージルは本のページをめくった。

言われて見ればそうかもしれない。

いつもバージルを呼ぶときは、アンタとかそういう代名詞しか使わない。

相手がそれでわかっているから良いと思っていたのだけれど

 

(まさか、だから俺の事も名前で呼ばないようになった、とか?)

 

だとしたら、随分と可愛らしい思考をしてるじゃないか

 

「………何か言いたそうだな。」

「そう見えるか?」

 

そんなに嬉しそうな顔をしてしまっているのか。

 

(まさかアンタがそんな事を考えてるなんて、今まで一度も思わなかった)

 

結局は、考えてることは一緒ってことで

 

 

 

(似ているようで似てないけれど、やっぱり似てるのが双子だろ なんて)