全てを壊してしまえたならと何度願ったことだろう
破壊者
「オイ、バージル」
声をかけると、ゆっくりと振り向く同じ顔。
不機嫌そうな表情は相変わらずで、もう少し肩の力を抜けばいいのにと毎回思う。
「何だ」
「何、って程の用は無いけどな」
本棚の前に立つ兄に歩み寄り、頭をかいた。
「アンタは何してるんだ?」
「見てわからないのか?」
「……本を探してるってのはわかるけど、何の本を探してんだって聞いてんだよ」
マジ性格悪い、と悪態をつきながらも、兄と本棚を見比べる。
バージルと、本は、何故だかしっくりくるんだが
「…お前が本棚の前に立っていると、違和感しか感じないな」
「うるせぇ。」
自覚してることを言われて少し腹が立った。
「で、何の本探してたんだよ」
「何も」
「…アンタも最近訳わかんねぇ行動するようになったよな」
「お前よりはまともだ。」
「いちいち一言余計なんだよ」
本棚の前にいるのに何も本を探していない、何の意味も無い行動を、バージルがするとは到底思えなかった。
しかし本人が言っているのだし、多分そうなんだろうけれど、でも珍しすぎる。
「じゃあ、何してたんだよ」
「唯、本を眺めていただけだ。」
「…ホント、本が好きだよな、アンタ。」
「知識を増やすことは悪いことじゃないからな。」
少し
ほんの少しだけれど、無機物の本に嫉妬してしまったりする。
めったに笑わないバージルが、本の背表紙をなで、優しげな目で見ただけだというのに。
「俺も、結構キてるよな。」
「何がだ」
「こっちの話。」
窓の外に目を移すと、ぽつぽつと水滴が付き始めた。
そういえば今夜は雨になるとかニュースで言っていたっけ。
「バージル、今日の夕飯は、」
「ピザは取らないからな」
「………なんで釘刺すんだよ」
「お前の行動はお見通しだ。」
「さっきは、俺の行動は訳わかんねぇみたいなこと言ってたくせに。」
「断言はしていないだろう。」
「…アンタのそういうところは嫌いだ。」
「お前が馬鹿正直すぎるだけだ。」
ふ、っと、バージルが俺を見て笑った。
それだけで、さっき胸に現れた感情が消えて、少しふわふわとした気分になる。
「ダンテ、何時までそこにいるつもりだ?」
部屋から出かけたバージルが、俺を見て問いかける。
「あー…今行く。」
そういうと、興味をなくしたかのようにさっさとドアを開けて、俺を置いて出て行ってしまった。
(俺の予想も感情も、全部ぶち壊せる唯一の存在)
名前を呼ばれただけで、俺はこんなにも幸せ