風呂場からごとりと重いものが床に落ちた音がした
何事かと行って見れば、ドアを開けた瞬間顔面にお湯が直撃する

「わ、悪い!大丈夫か・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・何をしている?ダンテ」
「あー、えっと・・・・転んだ」

あわててお湯を止めたらしく、水圧による反動に耐え切れずのた打ち回っていたシャワーは動きを止めた。
無様にも湯船で頭と足のある位置が逆になっている弟を見た。否、にらみつけた。
ダンテは悪い、と再度言いなおしながらも体勢を立て直す。

「足滑らせてシャワー取り落としたんだ。」
「馬鹿が」

ぽたぽたと水滴の垂れる前髪が鬱陶しい。
服も濡れてしまっていて、体に張り付いて気持ちが悪かった。

「なぁ、一緒に入んねぇ?」
「寝言は寝て言え。」
「寝言じゃねーよ。だってさ、アンタびしょ濡れじゃん。・・・・あ、そりゃ、俺のせいだけど。」

誰のせいだ、と訴える眼光に素直に認めて苦笑するダンテ。
あれは事故なんだろうが、今の言い方だとまるでわざとやったようにも思えてくる。
苛立つ気持ちを抑えながら、舌打ちをして戻ろうとドアに手をかけた

「なぁバージル」

不意に呼ばれ、ドアノブに手をかけたまま、顔だけ振り向いてダンテを見る。
少し嬉しそうな顔が癇に障って、思いっきり顔をしかめた。

「俺が転んで数秒もしないうちにアンタ来ただろ?走った?」
「・・・・・・・・何が言いたい。」
「俺のこと、心配してくれたのかと思ってさ」

確かめるように、しかし喜びを隠せない目が向けられて、返答に困る。
俺がアイツを心配していようがそうでなかろうが、ダンテには知る必要の無いこと。

「・・・・・・・・・くだらないな」
「なぁ、バージル」
「しつこい。黙れ」

一蹴してさっさと外に出てドアを閉めた。
ドアの向こうからは水音すらも聞こえず、ダンテが身動き一つしていないことが分かる。
くだらない、と言い捨てたときのダンテの顔が目に焼きついて離れない。
なんて嬉しそうな顔だろう、と純粋に思った。
あれが肯定を意味することだと、ダンテは分かっている。もっと別な言葉を選べばよかったと舌打ちをした。

(俺がアイツをどう思っているかなんてあいつは知る必要のないこと なのに)

次の瞬間ドアが開いて、後頭部に直撃する。ゴッと歯切れのいい音がして、鈍い痛みが頭に走った。

「あ、悪い」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

誰が馬鹿の心配などしてやるものか!!

 

 

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お兄ちゃん踏んだり蹴ったり。でも最後のはドアの前に立ってた自分が悪いと思う(笑)