一瞬
腕を斬られたような痛みを感じて、予想外のことに思わず呻く
しかしそこに血も滲んでいなければ、皮膚が裂けたわけでもない
こんなことは初めてではないから、顔を歪ませて舌打ちをした。「バージルー、ただいまー」
「また怪我をしただろう」手当てするための包帯と消毒液、ガーゼを持っていけばあからさまに顔を歪ませる。
消毒されるのが嫌なのだと分かっているから気にせずにさきほど俺が痛んだ腕と同じほうを引っ張ったら、案の定呻いた。「怪我してるって分かってんだったら、もうちょっと優しくしろよ。」
「さっさと出せ。」
「・・・・・・」コートを脱ぎ捨て、ソファーに腰を下ろしたダンテの横に座る。
二の腕が薄く切られていて、まだ血が流れていた。「ちょっとガラスで斬った。」
「これがちょっとなのか」確かに皮膚を切っただけだが、その範囲が思ったよりも広かった。
とりあえず消毒を、と思い消毒液をつけようとしたら、ダンテが痛みを予想してきつく目を閉じた。
それを見て、ほんのすこし悪戯心がわきあがる。ぺろっ
「っバージル!!!?」
「なんだ」
「いいいい今なにした!?」
「舐めた。」
「何、真顔であっさり・・・!!いてぇし!!」
「消毒だしな。」
「そういう問題じゃねー!!」いつもは自分からやってくるくせに、こうして逆にやられるとうろたえるらしい。
腕を引っ込めようとしているがそれを押さえつけて、さっさと包帯を巻いていく。
舌に残る血の味が不快でもあり、甘くもあった。「ほら、終わったぞ。」
「・・・アンタって、時々大胆だよな。」
「お前ほどじゃない。」不意に、こんな話を思い出した。
痛みと快感の神経は繋がっていて、痛みを通り越すと逆に気持ちよくなるのだという話だ。
いつだか本で読んだような気がする。「ダンテ」
「何だよ。」
「次怪我をしたら、消毒液を丸ごとかけてやる」
「っ・・・・な、何だよそれ・・・・」
「痛みを通り越すと快楽に変わるのだそうだ。試してみたい」
「俺は実験台か!?」
「愛しているぞ、ダンテ」
「〜〜〜っ!!」ダンテは俺のこの言葉に弱いと知っていて、口にする。
相手もそれをわかっているから、悔しげに口を歪めるしか出来ない。
愚かで可愛らしい弟に堕ちて行く自分がわかって、自嘲気味に口元を歪めた。
Fall to ache
(痛みに落ちる)
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ほのぼの双子?時間軸イメージは3のその後です。