俺達の喧嘩ときたら、まずはっきりとした決着は絶対にありえない。

発端はどちらかの皮肉から始まって、お互い売られた喧嘩は買う主義だから厄介だ。

大体の力も互角な上にお互いそう簡単に死にやしない。

終る時は来客があるか、店が半壊したことに気付いて我に帰るかの二択だけ。

そして互いに納得はしないけれど、喧嘩の続きは次回ってことで持ち越すわけ。

で、忘れた頃にまたどちらかが皮肉を言って。

 

俺達の喧嘩は永遠に続いていく

 

「それってパッと見イイコト言ってるように思えねえ?」
「全く思わん。」
「ロマンチズムがねえ奴だな。そこらの女なら”永遠の愛”なんて言っときゃあっさりときめいてくれるってのに。」
「くだらないな」

 

互いに切っ先を向けながら、円を描くようにゆっくりと回る。

俺達の喧嘩の特徴の一つに、会話が上げられる。

普通喧嘩なら喧嘩らしく互いを罵倒しあうものだろうが、俺達がしたいのはそんな言葉如きのぶつけ合いなんてつまらないものじゃない。

気がつくと互いを挑発するような台詞を吐いて、その言葉に乗って殺し合っている。

つまりは喧嘩中の台詞は誘い文句。

その誘いに乗ってくることが前提の愛の言葉

 

「永遠がくだらないって?俺もアンタも、人間に比べたらよっぽど永遠に近い存在だろうに」

「永遠を求める人間がくだらない。」

「じゃあ、俺のこともくだらない奴ってわけだ。」

「そうなるな。」

「言ってくれるぜ、バージル」

 

名前を呼ぶと同時に剣を上に放り投げ、ホルダーから愛銃を抜いて眉間を狙う。

一秒も無い刹那に引き金を引くが、銃弾はあっさりと壁に吸い込まれていった。

視界から消えたバージルを探して視界を巡らせると右へ跳躍し、壁に着地したバージルの姿が眼に入った。

既に抜刀の体勢に入っている。

 

「お前はいつもくだらない事をする。ダンテ。」

「全部計算してんだよ」

 

バージルが俺の懐に飛び込んでくると同時に、その刃を銃身で受け止める。

反対の手で上空から落下してきた剣を取り、一気に目の前をなぎ払った。

手ごたえはあったものの、おそらく皮膚をかすった程度だろう。

また視界から消えたバージルの姿を探して、辺りを見渡す。

 

「今思った。殺し合いってのは愛し合いに近いもんがある」

「気味の悪い事を…」

 

声の聞こえたほうを向けば、刀を鞘に収めているバージルが眉間に皺を寄せていた。

そして抜刀の体勢を取ったと思った次の瞬間、チンッと鞘が鳴る音がする。

慌てて後ろに跳躍した瞬間、さっきまでいた空間が裂け、そこにあった椅子が無残にもバラバラになった。

 

「だってホラ。こうして殺し合ってる今も、俺とアンタは見詰め合ってる。愛し合う時も、互いに見詰め合うもんだろ?」

「そこに込められた意味合いが違う。馬鹿馬鹿しいことを」

 

剣を収めて両手に銃を構え、バージル目掛けて連射する。

それを刀で切り落としながら、バージルは俺へと近づいてくる。

少しずつ、少しずつ。

 

「それに、愛し合う時には言葉が必要不可欠だ。アイシテルにはアイシテルを返す。俺とアンタも、互いに言葉を返してる。

なあ、バージル。愛してるぜ」

 

流石にコレには乗ってこないかと思いきや、バージルの口元が僅かに釣りあがった。

 

「ああ、ダンテ。愛している」

「は………」

 

予想外の返答にトリガーを引く手が止まったのを見逃さず、バージルは一気に距離を詰めて俺の両手から銃を弾き落としてしまった。

焦って剣を取ろうとした次の瞬間、右手が壁に縫い付けられる。

鋭い痛みが身体に走り、一瞬右腕が痙攣した。

 

「イッ……テメ……」

「言葉は返すものが礼儀だと、お前が言った。」

「あー、そうだけど……まさかアンタが乗ってくるとはね。」

「…たまには、弟のわがままに付き合うのも悪くは無い。こうして得もすることだしな。」

「クソッ、ムカツク。決着ついちまったじゃねえか。」

 

永遠に続くはずだった愛し合いは、俺のバカで終ってしまった。

バージルの刀が右手から引きぬかれ、その痛みが走った次の瞬間にはもう傷は治っていた。

 

「今回は俺の勝ちだな、ダンテ。」

「あークソッ!俺はアンタに引っかき傷しかつけてねえのに!!」

「その傷もとっくに治ったがな」

「畜生!」

 

喧嘩の切欠や負けたことなどどうでもいい。

あの、至高の時間が終ってしまったことが腹立たしい。

つまらないつまらないつまらない!

 

「今日は思いの外、家具を破壊せずに終ったな。」

「…………………。」

「とはいえ、貴様につけた傷は右手だけ…か。」

 

バージルを見れば、刀についた血を払い、その刀身をじっと見ている。

その視線が俺と合った瞬間、その目が語っていることを理解して俺は口の端を吊り上げた。

 

「第二ラウンドと行こうか?ダンテ。」

「アンタも不完全燃焼だったってわけだ。」

「どうせやるならば、徹底的に叩きのめしたいというわけだ」

「いいぜ、やろう。もう一回愛し合おうぜ、バージル」

「ああ。愛し合おうダンテ。」

 

そしてまた、互いに剣を構えて走り出す。

 

今日も俺達の愛し合いは終ることはないんだろ?バージル

 

 

 

 

殺し愛